酒徒行状記

民俗学と酒など

沖田総司の三段突

  Twitterで剣術の突き技の話が出ていて、「そういえば、沖田総司は三段突きが有名だけど、あれはどこら辺が出典なんだろう。」と疑問に思った。

 というのも、「三回も突くなら一回で決めろよ」というのと、「突き技三回繰り返すより、バリエーション混ぜた方がいいのでは?」という疑問が湧いたからであった。

 本件、出典にあたってみた結論から言うと、

  • 突きは「や、や、や」と三歩の足遣いとともに三回突くものであった。
  • 突きは、沖田のみの技ではなく、天然理心流の流儀として「突き技の際には三回必ず突く」決まりになっていた。
  • 沖田の突きは、足拍子3つが続けて一つに聞こえ、3本の突きが絶え間なく出され、一つの技のように見えた。

ということであった。

 沖田が三段突きを使ったことは子母澤寛の『新選組遺聞』に、佐藤彦五郎の子佐藤俊宣の談話として見えている。(以下引用は万里閣書房, 昭和4年版に拠る。仮名遣い等は適宜改めた。)

 これによると沖田の構えは

 剣術を使ふ形は、師匠の近藤勇そっくりであった。その上、掛声迄が、細い肝高いよく似たもので、ただ太刀さばきに少しうるさい癖があり、勇が、少し腹を突出し加減、の平星眼であったに比し、沖田は、太刀先が下がり気味で、前のめりの構をとった。

 天然理心流の定法の平星眼は、左の肩を引いて右の足を前に半身を開き、勇でも然うだったが、沖田は殊に目立って、剣の先が右寄りになっていた。土方歳三は一層ひどかった。(p.85)

   というものであったという。

   面白いのは突き技の話の前に、よく稽古した技として

勇は時々、刀を下げて、面から胸を開け放しに尾をたれるような構えもした。斬込んで来る敵の刀の力を利用して逆にこれをすり上げて、面へ行く手であって、沖田もまた道場ではよくこれを真似ていた。(p.85)

 という技を紹介している点である。

「斬り込んで来る敵の刀の力を利用して」という点、少しイメージが湧きにくいが、下段に構えて、すり上げ面のようにする技であろうか。*1

 そして問題の突きであるが、沖田のみが得意としたわけではなく天然理心流の突きが、「突き技の際には三回必ず突く」という決まりになっていたようである。 

 この流の「突き」は必らず三本に出る。しかも刀の刃を下とか上とかへ向けていく大ていの剣法と違って、勇をはじめ、刀を平らに寝せて、刃は常に外側に向け、突いて出てもし万に一つ突き損じても、何処かを斬るという法をとった。

 やッ!といって一度電のように突いて行って、手答えがあっても無くても、石火の早業で、糸を引くように刀を再び手元へ引くと、間一髪を容れずにまた突く、これを引くともう一度行く。この三つの業が、全く凝身一体、一つになって、即ちこの三本で完全な一本となる事となっている。(p.86)

 天然理心流が「平らに突きをだす」というのは『るろうに剣心』などでも引用されていて知名度が高いが*2、「手答えがあっても無くても3回必ず突く」というのはあまり知られていないのではと思う。

 そして実際の沖田は突き技は

や、や、やと足拍子の三つが、一つに聞こえ、三本仕掛けが、一技とより見えぬ沖田の稽古には同流他流を問はず、感心せぬものはなかった

 とのことで、足拍子3つが続けて一つに聞こえ、3本の突きが絶え間なく一つの技のように見えたということである。

 Wikipediaではこれを

平正眼(天然理心流では「平晴眼」と書く)の構えから踏み込みの足音が一度しか鳴らないのに、その間に3発の突きを繰り出した(すなわち目にも止まらぬ速さで、相手は一突きもらったと思った瞬間、既に三度突かれていた)という。沖田総司 - Wikipedia

と解しているが、これは違うのではないかと思う。

 また、「3本の突きが一本のように見えた(原文では「一つの技のように見える」とはあるが、一本に見えたとは書いていない)」「一度の踏み込みにも関わらず、その間に三度の突きを入れる(原文では、「や、や、や」と踏み込みも3歩)」というような解釈は、漫画などの影響ではないかと思われる。 

 ではなぜ、突きを三度やることが流儀の掟になっているかというと、

  • 刀が相手に刺さりっぱなしにならないようにすぐ抜く癖をつける
  • また突き損じてもすぐ体勢を戻せるようにする

 ために、日ごろから「突きは三本」として稽古したのだと思われる。

 新陰流などでは「突きは死太刀」と呼び、*3居着ついてしまう原因となるとしているが、その対策として居着かないよう、流儀の掟として稽古をしたと考えられる。 

 私はまだ天然理心流の演武を見たことがないが、きけば友人の勤める拝島大師では演武があるそうである。

 今でも突きは三本で稽古をされているか確認しに行きたいものである。 

*1:天然理心流の「龍尾」の技ではないかとも思われる。

*2:るろうに剣心』ではなぜか土方歳三が考案したことになっていたが…

*3:実は、このセリフ「刀使の巫女」で知ったけど、出典を知らない。これも一度確認せねば。