酒徒行状記

民俗学と酒など

アブサンツアー

 友人から、「アブサンを飲みに行かないか?」と誘われた。

 聞けば友人、実は今までアブサンという酒をを知らなかったが、イギリス人の知り合いに「日本であんなにうまいアブサンが飲めるとはしらなかった。大変いい店を見つけた」と言われ、がぜん、興味がわいたとの由。
 
 アブサンは、ニガヨモギ、アニス、ウイキョウなどを使うスイス発祥の薬草系リキュールである。

 19世紀末、フランスで大流行し、ポール・ヴェルレーヌロートレックゴッホなどの詩人や芸術家が愛飲した(そして身を持ち崩した)ことで有名なので、フランス文学や西洋美術が好きな方はご存知かもしれない。
 かなり癖のあるリキュールで、10人中8人はとことん嫌うが、残りの2人はそれなしでは、生きていけないくらいハマるというリキュールである。無論私は後者。

 友人が果たしてアブサン気に入るかは不明だったが、まあアブサンの先達として一緒にアブサンツアーを行うこととなった。

 店は東銀座、Vanilla Var。
 東銀座、微妙に勤め先からは公共交通機関で行きにくいのだが、友人の話ではシェアサイクルを使えば近いとのこと。
よって急遽、自転車を駆ってアブサンツアーとなった。なお、自転車は返却してから飲んだ。
 長時間借りてると賃料が高くなるし、飲酒運転対策でもある。念のため。

vanilla-var.net1.食前酒

 いきなり、アブサンを飲むのもなんなので、食前酒代わりに、友人がよくいく日本酒の酒屋「朧酒店」に寄る。 www.oborosaketen.com 今どきのおしゃれな感じの小売りの酒屋。ちょうど別の友人へのお使い物の酒を探していたが、珍しく滋賀の「不老泉」があったので買う。これは滋賀は高島の銘酒だがあまり東京では見かけない。しっかりした味の良いお酒なので好きなのである。

furosen.com 試飲もできるというので、食前酒代わりじゃと試飲もいただく。

 澤乃花(長野)、山川光男(山形政宗)、緑の三種。

 どれも吟醸香が素晴らしい。とくに澤の花は素晴らしかった。先日長野・松代に行った際にも飲んだはずなのだけど、ここまでの香りはなかったのでランク違いのやつだったのかもしれない。

 

2.アブサンツアー

 さて、その後お目当てのVanilla Var。路地にあるのと看板が小さいので、ちとわかりにくいが、多分ここだろうと見当を付けたら一発で見つけることができた。久しぶりに酒への嗅覚が働いた。

 店に入るといきなりアブサンのファウンテンがだされてあったので。びっくりする。

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ファウンテン。アブサンを水で薄める際の容器をファウンテンと呼ぶ

さすがに「1杯目からアブサンは、他のカクテルの味に影響するからよくなかろう」と思って、ギムレットホワイトレディをそれぞれ飲む。(以下2杯ずつ頼んでいるのは自分と友人のオーダーである。決して、8杯飲んだわけではない)

 ギムレットはひさしぶりである。少し軽い感じでうまい。お通しはスープ。すきっ腹で来ているので、これもとてもうまい。

 2杯目、スイスのアブサン、フランスのアブサンをそれぞれいただく。スイスのアブサンは非常に風味が豊かである。さすがにアブサンの本場である。

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白濁したアブサン

 3杯目、ウォッカアイスバーグ、信州のアブサンをそれぞれ。

 ウォッカアイスバーグ、普通はアブサンウォッカのカクテルなのだけど、アブサンビターズに変えて出される。

 友人が頼んだ信州のアブサンは、そんなにヨモギの香りが強くなく、むしろ柑橘っぽいフレーバーを感じる。いかにも和のテイストである。 

 4杯目、マリリン・マンソン監修のアブサンと、アメリカ産のアブサンマリリン・マンソンは、アブサンが好物で、ライブの前には半ボトル吞んでから出演したというが、さぞかし終わった後は、マイクがアブサン臭かったのではと思う。

 そんな名うてのマリリン・マンソンの監修のアブサンだけど、なんとなく軽い感じ。また友人の飲んでいたアメリカ産のアブサンも風味が軽い。バーテンダー氏に聞けば、アニスが多めに入っているせいだという。 

 

3.ツアー打ち上げ

 アブサンで二人ともだいぶ酔っぱらったので、有楽町の「金陵」に向かう。ここは香川の地酒「金陵」の蔵元がやっている老舗の居酒屋である。安いしおいしいし、席数が多いせいか、たいていすぐ入れるので有楽町では愛用している。角ハイ、日本酒(金陵)などのむ。つまみはここは親鳥の焼き鳥がおいしい。

 香川は、骨付き鳥という鳥もも肉の焼いたのが名物であるが、この時、親鳥とひな鳥を選ぶことができる。

 ひな鳥は軟らかいが、味があっさり目。一方、親鳥は肉質は固めだが、味がしっかりしていて旨い。

 この店では、そこからアレンジして、酒飲みが食いやすいよう、骨を外した、親鳥の焼き鳥を限定で出している。非常に食いごたえがあってとても美味しいのである。

 〆にお握りなど食べて帰る。どうして居酒屋のお握りはああもうまいのであろうか。

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 以上がアブサンツアーの報告である。久々に「酒徒行状記」の名前にふさわしい記事となった。

 

 実は、最近、私事でいろいろあって、鬱々として楽しまざる日々が続いていた。(友人もそれを気にしてアブサンツアーに誘ってくれたのかもしれない。ありがたいことである。なお、友人はしっかり緑の妖精の下僕となった。よきかな!)

 世の中辛いことも多いが、せめて、琅奸の円柱緑なす「アブサン」国へ時々、行ってこの世の憂さを晴らすとしよう。

 

 来たれ「酒」は大河となって海へと流れ/万波寄せり!
 天来の「苦味酒(ビッター)」/滝の瀬と山より来る
 行かん、賢明なる行路の人よ/琅奸の円柱(まろばしら)緑なす「アブサン」国へ

 アルチュール=ランボー「渇きの喜劇」(『ランボー詩集』堀口大學訳白鳳社1968 p.118)