承前
前回、「 鹿の胎児(ハラコ)を料理する(5)-幡ケ谷龍口酒家の鹿の胎児と蛇のスープ - 酒徒行状記」で、料理の大まかな方針を立て、また龍口酒家のアドバイスをいただいた。
いよいよ、レシピの確定と調理・実食である。
※なお、今回は調理前の食材が出てきますが、調理前の食材写真など苦手な方もあるかもしれないので、一部、苦手な人が多いと思われる写真はイラスト掲載としています。
写真をご覧になりたい場合は、下記リンクでグーグルのフォトアルバムでを開いてご覧ください。
鹿のハラコ写真
https://photos.app.goo.gl/1hbBaGLbm37h3BLu7
1.酒香鹿胎山薬湯のレシピ
龍口酒家の石橋シェフのアドバイスを受けて、鹿のハラコ料理のレシピは最終的に以下のように決まった。
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■酒香鹿胎山薬湯(鹿のハラコと山芋のスープ)
<材料>
【A】鹿のハラコ 1個
【B】
・ニンニク 1個
・長ネギ 3本
・生姜 1個
・干した山芋 3~4片
・山芋 1本
・高麗人参 1個
【C】
・高麗人参 1本
・鷹の爪 3本
・白酒
【D】塩:適量
<調理法>
1.【A】の鹿のハラコの内臓を取り、肉と内臓をよく洗う。
2.【B】の具材を適宜切る。(ニンニク・生姜はスライス。長葱は斜め切り・山芋は大きめの拍子木に切る)
3.ハラコの肉を白酒で洗い、かるく塩とニンニクをまぶし味をつける。内臓は白酒につけて臭みをとる。
4.水4Lを鍋にはり、3で臭み取りと下味をつけた、肉と内臓と、【B】を入れる。(白酒も多めに入れる)
・沸騰したら火を中火にし、1時間ほどゆっくり煮る。
・火が通ったら、塩で味を調える。(塩辛くなりすぎないようにゆっくり味を見る)
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せっかくなので、食べる人に丸ごとのハラコを見てもらえるよう肉は切り分けず、あえて丸のままでゆでていくことにする。また石橋シェフは内臓は使わないと言っていたが、全体の味を見たいので内臓も入れたレシピにしてみた。
白酒を多めに使うのは私の趣味みたいなもので、酒は入れれば入れるほどおいしくなるという、私の信念のためである。なので名前に「酒香」と入れた。
雅名は酒香鹿胎山薬湯(ヂウシャンルータイシャンヤオタン)!とする。『鉄鍋のジャン』ならここで、悪い笑みをしながらカカカカーと高笑いするところである。*1
以上のレシピを打ち出し、A-sukeさんの店、水道橋BASE Campでいよいよ調理を行う。
2.鹿のハラコを料理する
以下、料理記録式に記述していく
2-1.鹿のハラコの下処理。
今回、ハラコは獲った後、私が預かって冷凍保存していた。ゆっくり解凍されるように冷蔵庫で解凍していたが、ちょっと時間が足りず、まだ少し凍った状態だったので、流水で解凍する。
鹿はだいたい11月~12月ごろに妊娠し5月ごろ出産する。
この鹿は3月に獲れたものなので、まだ3か月くらいのものだろう。大きさは30cm程度。比較的小さめである。毛は生えていないがまつげが少し生えている。しかしまぶたはまだ開かない。性器から性別はオスであると判明した。
ヒヅメは生えているが、まだ軟らかい。消しゴムより少し硬いくらいの固さである。この状態でも成獣と同じ部品がついてるのにあらためて驚かされる。
2-2.内臓をとる
腹と肛門を割り、内臓を外す。
3か月程度だが腸には胎便があったのでそれは外して捨てる。胎便は無菌なのでもしかしたら食べられるのではとも思うが、止めておく。
ハツ(心臓)、フワ(肺)レバー(肝臓)、胃、マメ(腎臓)といった臓器は丁寧に水洗いし、白酒に浸して臭み抜きをする。
2-3.肉に下味をつける
肉も白酒で洗い、ニンニクをまぶし、30分ほど少し寝かす。その後塩で少し下味をつける。
2-4.鍋に水を張り、食材を入れる
鍋に水を張り、また300mlほど白酒を入れて煮ていく。
なお。今回、レシピの考案は私、調理はA-sukeさんメインでおこなった。
一応私も、山芋を刻む等のお手伝いはしたが、微妙に山芋の大きさがそろってないのはそのせいである。
2-5.沸騰したら弱火で煮ていく
ゆっくり煮ていくと。しばらくすると結構アクが出てくる。
また煮ていくと、正中線にそって皮が破れる。やはり皮の弱いところだからだろう。そういえば四つ足の動物を丸の状態で煮ていくのは、私もA-sukeさんも初めてである。
2-6.味付け
一時間ほど煮込んだら完成。最後、味を見ながら塩で味付けする。龍口で習った通り、ここで失敗しないようにしなくては。肉の味を確認するのがメインなので、比較的薄味にしてもらう。(最終的な塩の分量は店のオーナのA-sukeさんにお願いした)
3.実食、酒香鹿胎山薬湯(ヂウシャンルータイシャンヤオタン)
3-1 スープと肉
さていよいよ実食である。まずはスープと肉から。
スープは、塩、ニンニク、ショウガ、唐辛子、ネギ、高麗人参、白酒で味付けした薬膳風のスープである。
漢方の味が強く、鹿の出汁の風味は感じられなかった。後述する通り、非常に淡白で繊細な肉なので、スープにも味が出ないものと思われる。
かなり薄めに味付けしたので、好み応じて、後述するラー油ベースのたれで味変をしてもらった。
先行研究でも見た通り、白身のものすごく柔らかい肉質である。
鶏肉やカエルという意見もあったが、かなりそれよりも柔らかく繊細である。皮の部分などはゼラチンに近い食感である。
筆者の母方の郷里では鯛の頭の潮汁の鯛の目玉の部分を珍重するが、それに似た感じを抱いた。
臭みなどは一切ないが、正直、くせがなさ過ぎて、おいしいかというと微妙である。悪くはないけど「こういう風に料理したら、さらにうまくなるだろう」という伸びしろがあまり見えない肉である。ただ、骨の軟骨部は面白い食感でこれはよかった。一方ヒヅメもかじってみたが、これは食用には固すぎで旨いものではなかった。
3-2 ホルモン
次は、ホルモンである。
レバやフワといった内臓も肉と同じく癖がないのではと思ったが、多少はクセがあった。むしろ肉がクセがなさ過ぎて、伸びしろが思いつかないないのに対し、内臓は、少しクセがあって「とても丁寧に下処理されたホルモン」という感じで、美味であった。
いかんせん、分量が少なすぎて珍味の域ではあるが、ホルモンと一緒にスープにしたには正解であった。
3-3 ブレンズ
そして鹿のハラコ料理で、最もおいしかったのがブレンズ(脳味噌)であった。
茹でているうちに、頭蓋骨が外れてしまったためかなり見た目は悪いが、味は最高である。上品な軟らかい白子の食感だが、魚の白子と違いコクのある味がある。くさみは全くない。
料理方法にもよるが、紹興酒など黄酒に合わせるとよいかもしれない。ただやはり分量が少ないのはネックである。
なお、頭の部分はやはり皮のゼラチン質が多く、鯛の潮汁の目玉をしゃぶってる感覚である。これは食感によっては好き嫌いがわかれるかもしれない。
3-4 鹿のハラコ料理まとめ
今回、「酒香鹿胎山薬湯」として、鹿のハラコ料理を作成してみた。
たしかに先行研究にある通り、非常に軟らかい白身の肉質である。筆者は柔らかすぎる食感と皮のゼラチン質からタイの目玉を連想した。
肉は正直、旨い肉ではなく、むしろ癖がなさ過ぎて、どう調理するのがいいのかわからない感じであった。一方、ホルモンやブレンズは美味だがいかんせん量が少ないのが問題である。これは鹿の月齢にもよるとは思う。
いずれにせよ、今回、初めての鹿のハラコだったので、肉の味を確認するためにかなり薄味にしたが、クセがない分、調味料や食材の影響を受けやすい肉だといえる(龍口酒家でも蛇を加えるのは、多少のクセをつけてスープの味を重層的にするのだと思う)
今回は中国料理の手法をベースに「湯」にしたが、ゼラチンっぽい皮の食感は好む人と嫌う人があるので、場合によっては焼くのもよいかもしれない。
中に濃い目の味付けをしたもち米などを詰め、蒸した後、外側は油をかけて焼くのも宴会料理には受けそうである。*2
全体的に、ポワレなど身崩れしやすい白身魚を扱う感じで料理するのよいかもしれない。また機会があれば料理したいものである。
さて、ながなが「鹿の胎児(ハラコ)を料理する」の連載をやってきたが、次回「鹿の胎児(ハラコ)を料理する(7)-鹿の胎児(ハラコ)を食べる意味 - 酒徒行状記」で、鹿のハラコ料理のまとめを行いたい。