酒徒行状記

民俗学と酒など

日本中国白酒協会のイベントに潜り込むの記

はじめに

 最近、中国の現地味の料理が割と手軽に食べられるようになった。

 従来日本人がなじんでいた広東や福建料理の味や、ジャパナイズされた餃子・ラーメンとは違う現地味の中華、いわゆる<ガチ中華>の店が増えてきた。また、激辛と花椒のしびれる味「麻辣味」についても、普通にスーパの調味料でも見られるようになってきた。

 

 さて、そうした中、あなたは現地味の激辛としびれる味の麻婆豆腐を食べたとしよう。口の中は油の熱さと辛さと痺れで大変なことになっている。

 この時飲む酒は、あなたは何を合わせるだろうか?ビール?レモンサワー?ハイボール?中華料理だから紹興酒

 私のように病膏肓に入った*1中華料理好きとしては、答えは一つ「白酒」である。

 白酒。ひなまつりの白酒(しらざけ)ではない。中国語でバイジュウ(bai2 jiu3)。一言で言うと中国の焼酎である。度数はだいたい50度以上。60度超えも少なくない。コーリャンやトウモロコシを原料とし、パイナップルのような熟れた果物のような独特の香りのするお酒である。

 どんなに激辛発火状態の口であっても、この白酒を飲めば、白酒の強いアルコールが油と辛み成分をきれいに拭い去り、花やかな白酒の香が麻辣のスパイスの風味と相まって、食べ物と酒の幸せな結婚<マリアージュ>を楽しむことができる。

 広東や香港、上海、台湾といった嫩らかく、甜めな味、あるいは薄味で素材の新鮮さを生かした料理なら紹興酒も合う。むしろ紹興酒の方がおいしい。

 しかし、ここ何10年か中国料理のメインストリームになっている、唐辛子と花椒を多用する四川系の麻辣な味付けには、紹興酒は太刀打ちできず、白酒が絶対に合うのである。

 

 さて、この美味しい白酒。日本ではまだあまり飲めないのが現状である。

 80C[ハオチー] 中華料理がわかるWEBメディアやディープ・チャイナ東京(

https://deep-china.tokyo/)といったマニア向けの中華料理サイトに載るような店ならまだしも、最近雨後の筍のように増えている大陸系激安中華だと、メニューにも載っておらず、私が使える数少ない中国語「有没有,白酒?(白酒、ないのん?)」で聞いても、残念ながら「没有(ないわ)」とかえってくることがほとんどである。

メニューの例。大陸系激安中華のお店は同じ卸から酒を購入していることが多いらしく、メニューがほとんど一緒である。ただ、もし運よく気の利く服務員さんだったら厨房か老板に相談して、料理用に使っている二鍋頭などを持ってきてくれるかもしれない。

 こうした現状を憂えて、今年五月、一般社団法人日本中国白酒協会が設立された。

baijiu.jp

 この団体は主に、中国酒を輸入・販売する日和商事が中心となって設立した団体である。日本で白酒を普及させ、「ウイスキーハイボールのように、居酒屋で白ボール(パイボール。白酒のソーダ割り)を自然に頼めるくらい、白酒を日本人になじんだ酒にしよう」というのを目的としている。

 協会設立パーティは6月に行われたが、今回、白酒に興味のある一般層を募って7月8日、銀座コリドー街虎萬元にて「虎萬元で白酒を飲み明かそう!!」イベントが行われることになった。 

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 2022年7月8日、これに参加し白酒をのみあかしてきたので、その報告を行う。

 

1.到着~開宴 

 こういう飲食イベントに参加する経験、実は私は少ない。

 今回、筆者は一人で出席したが、「皆知り合い同士できているのかしらん」と不安に思いつつ、店についたところ、割と一人で参加という方もおられて一安心。

 参加者の大半は30代~40代男性。女性も少ないながら参加されていた。まあ、度数の高いお酒のイベントなので、年齢や性別の構成は頷けるところである。参加者は40人の予定であったが、今回は募集期間がギリギリになったので、30人の参加になったとのこと。

 あとで話を聞くと、やはり中国滞在経験者が多く、筆者のように、中華好き酒好きなだけで来てる人は少ない印象であった。

 席に着くと乾杯用の白酒が、冷やされてテーブルにおいてある。

 普段、現地味の中華でも、庶民的な店ばかりに行っていて、久々にちゃんとテーブルクロスのかかった中華料理屋に来たので、ちと緊張する。

 

開宴前の様子。白いテーブルクロスだけでアガる。

  机の上には、本日の菜譜と白酒の銘柄が記された紙が置かれている。

 こういうのも大変うれしい。

  同席の人々と挨拶していると、会の進行説明と乾杯の用意が始まる。

  

司会進行の中川正道氏(左)と菊池一弘氏(右)

 司会は羊齧協会ラムバサダー菊池一弘氏と、麻辣連盟の中川正道氏。

 会の趣旨。現地味の中華がここまで普及したので、これを機に白酒普及をめざそうとの由。10年前、二人が四川料理の普及をされたときは、「四川料理なんて辛い料理、日本では流行らないよ」と周囲にはいわれたそうである。白酒も今は「あんな強くて癖のある酒は日本では流行らないよ」と言われているが、いつか普及して、「白酒,有」といわれることを願うばかりである。

 

 無理強いはしない。飲めない人は、乾杯でもホントに杯を干さなくてもいい(「随意(スイイー)」ですな)などの説明を受けた後、乾杯!

 その後は、日和商事の方から、初心者向けの白酒講座を聞きながら会食開始である。  

白酒講座。

白酒講座では

 ・中国のほとんどの地域では白酒が飲まれており、実は紹興酒を飲む地域は少ない。

 ・白酒には清香、醤香、濃香の主に3種類の香型にわかれる

 清香:代表銘柄は「西鳳酒(陝西省)」や「汾酒山西省)」など。

 醤香:代表銘柄は「茅台酒貴州省)」や「郎酒(四川省)」など。

 濃香:代表銘柄は「五粮液(四川省)」「剣南春(四川省)」など。*2

 という白酒のいろはの「い」の説明うける。

 今回は、宴会では、このうち濃香の銘柄を飲み比べて、皆さんに味を確認してもらおうとのことであった。

 説明で一番興味深かったのは、白酒の製法と発酵窖である。

 日本酒やウイスキナーなどは樽や桶を使用して醸造が行われるが、白酒は地面に掘った穴(発酵窖)に固体の醪(本来、醪は液体なので、この語は不適当だが、日本語に対する言葉がないので醪の語を充てる。なお中国では大曲と呼ぶ)を埋めて醗酵させるのである。

 固体醗酵という白酒独特の醸造法だが、これの写真は、いままで白黒の写りの悪いものしか見たことがなかった。

 今回パネルでカラーの写真を見て、「おお、こんな風に地面に埋めているのか!」というのがわかったのは今回の収穫の一つであった。

 やはり一度は本土に行って、白酒の蒸留所を見学せねばならぬ。

 

 さて、乾杯に使われたのは、

綿柔尖庄。冷やして飲むの旨い。冷凍庫に入れてもいいかも。

綿柔尖庄(メンロージェンジョン)。五粮液と同じ原料だけど、ライト系の度数のもの。度数も35度とおとなしい。

 調べると、もともと四川の酒都、宜賓には利川永老酒坊という酒蔵があってそこで「尖庄」という酒銘の酒を造っていた。のちに五粮液五粮液集団有限公司が利川永老酒坊を買収したが、「尖庄」やそれをさらにライトにした「綿柔尖庄」も五粮液の低価格版として生産しているとのことであった。

 味の評価は「綿柔尖庄酒如其名,入口第一感觉是绵甜,辣度低、柔顺度高,再加上酒精度偏低,老酒民喝着不起劲,年轻人和江苏、安徽、山东一带酒友更为喜欢。(綿柔尖庄はその名の如く、口に入る感覚は綿のように柔らかく、辣さも低くなめらかである。アルコール度も低く、年配の酒飲みには刺激も少ない。年若な江蘇や安徽、山東一帯の酒友には喜ばれるだろう)」とのこと。

 白酒の中では柔らかいものをきりりと冷やして飲むのだから、さらに口当たりがよくなり乾杯には大変都合がよい。*3

 

 向かいに座っていた方の提案で「やはりチェイサーも頼まねば」ということでビールをチェイサーに杯を重ねる。

 注ぎながら、三本指でトントンと机をたたくしぐさをする人もあり。きけば、注いでくれた人に礼を示す&「注ぐ分量これ以上でいいですよ。」という仕草とのこと。きけば、上海に滞在していた方であった。

 さすがのしぐさである。

2. 前菜と料理

前菜は以下の通り

  • 酔蝦(酔っ払い大海老)
  • 鰹魚(鰹の麻辣だれ)
  • 口水鶏(よだれ鶏
  • 鶏肝(砂肝の青山椒和え)
  • 猪脚(豚足の滷水煮
  • 牛肚(トリッパのレモンあえ)
  • 四季豆(いんげん干し海老炒め)
  • 黄瓜(胡瓜さっぱりあえ)
  • 毛豆(枝豆の紹興酒漬け)
  • 玉米(とうもろこし沙茶醤)

前菜!!これだけでかなり満足。

  酔蝦、猪脚、毛豆、黄瓜など、定番前菜が並ぶ中、一番秀逸だったのが、牛肝。

 牛肝、トリッパ。中華料理だと臭み対策もあって麻辣にしてしまうことが多いけど、これは茹でたのを、レモンとスパイスで味付けした非常に夏向きの前菜であった。柔らかい綿柔尖庄と相まって非常に酒が進む。酔蝦、猪脚も割と優しめの味にしていて、初心者でも食べられる味にしている。

 話に夢中になっていると、「料理が出せないので、前菜早めに召し上がってください」とホールの方に言われる。

 料理は 

烤羊肉串
  • 烤羊肉串(羊肉串)
  • 北京烤鴨(北京ダック)
  • 烤魚(貴州烤魚鍋)
  • 冬瓜蓴菜(冬瓜と蓴菜の冷製)
  • 鴨湯(北京ダックの鴨肉の白濁スープ)
  • 玉米饅頭(とうもろこしパン)
  • 青梅涼粉(緑豆葛切り青梅ジュレ

 面白いのは、冬瓜蓴菜。「中国でも蓴菜は食べるのかしらん、それともこの店の創作メニューかしらん」と話しながら食べる。盛り付けは和食よりも豪快だが、和食で食べる蓴菜のあんかけとかなり似た味であった。

 

冬瓜蓴菜。夏らしい一品。

 

北京烤鴨、北京ダックを捌くのを見るのはいつでも楽しい。

 北京烤鴨を捌くのを見るのは久しぶり。なかなかコロナで宴会がないせいである。

 そして北京烤鴨もよかったが、より良かったのは鴨湯と玉米饅頭。

 北京ダックを捌いた後、身と骨をスープにするのは定番だけども、それに付け合わせにトウモロコシのパン(玉米饅頭)が用意されていた。

 トウモロコシパンだけど、わざわざパンにした後、トウモロコシの形に直して、葉をつけてある。こういう遊び心は、良い店に来たなあと思わせてくれる。宴会はしないとなあ。

 トウモロコシパンに、鴨のだしのきいた湯をじゅぶじゅぶと吸わせていただく。 

玉米饅頭。こういう料理の遊びはたのしい。

鴨湯と玉米饅頭。浸して食べるのが最高である。

3.飲み比べ白酒

 乾杯用の綿柔尖庄もすでに何本か空いたので、白ボール(江小白の炭酸割り)を飲みながら、料理を頂く。

 白ボールは以前、中野の四川フェスでいただいたが、前のより味が複雑であった。聞けば、トウガラシと花椒をつけて麻辣風味にしてあるとのこと。屋台で飲んだ時よりも味が格段に違う。

 飲み比べの白酒は

 飲み比べ用に酒の種類を示す紙が置いており、そこにシールで色分けして、間違った酒を間違ったコップに注がないように印をつけている。

飲み比べ白酒

 こういうのは、さすが酒の輸入会社さんが肝入りのイベントだと思う。コンタミはいやだもんね。

 いずれも濃香に分類されるが飲み比べをするとやはり違いが分かる。茅台王子は茅台酒の廉価版。茅台よりもライトだが風味は感じる。汾酒は相変わらず強い味わい。私が最近推しなのは、沱牌六粮。これも、前に中野の四川フェスで飲んで、香りと味と度数がちょうどよく、とても気に入った酒である。ミドルクラスの酒とのことであったが、コストパフォーマンスは高いと思う。

 飲み比べだが、一杯などと言わず、次々注いでくれる。そして、ついつい沱牌六粮ばかり頼んでしまった。まだ輸入されたばかりなのであまり見かけることが少ないが、もっと売れることを願う。

 

 今回、四川ブームの火付けの中川正道氏と、菊池一弘氏にも会う。

中川さんの著作、 

www.amazon.co.jp

持ってきてサインしてもらえばよかったと思いつつ、名刺交換。

 菊池氏からは、中国になぜ縁ができたかなれそめを聞く。

 そんなこんなで挨拶をしていたら、そろそろお開きとのこと。烤魚を急いでつついて、青梅涼粉を平らげる。烤魚は思ったより辛くない。たぶんかなり日本人向けにアレンジしたようである。青梅涼粉もさっぱりしていて口直しに良い。

 その後皆で記念撮影して三々五々帰る。

おわりに

 白酒をこんなに飲むイベントに参加したのは初めてである。しかし大量に白酒を飲んだはずだが、白酒のみにしたせいか翌日の二日酔いはほとんどなかった。

ただ、スマホのカメラロールをみると、どこかでラーメンを食った形跡があったが、思い出せない…

 そして次の週、白酒の味が忘れられず、宴会でもらった小瓶を舐めたり、友人をむりやりに火鍋に誘って、白酒をぐびぐびしてしまった。

 

宴会でお土産にもらった「火爆」。火炎瓶になりそうなかっこいいデザイン。

3,4日後に友人と食いに行った火鍋。赤坂見附、望蜀盧。

白酒が恋しくて、白酒飲む。濾州老窖。

 以上、白酒イベント潜入記であった。

 また同じようなイベントが8月あるとのこと、これもぜひいきたいものだ。

 なお本記事については、日本中国白酒協会の公式で、レポートがあるのでそちらもご覧ください。 

baijiu.jp

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*1:文字通り中華料理のカロリーが内臓脂肪になりつつあるのが目下の悩みである。

*2:詳しくは 

baijiu.jp 参照。

*3:参考:今天才知道,尖庄曲酒和绵柔尖庄区别这么大,搞清楚再买不吃亏 https://baijiahao.baidu.com/s?id=1731163821856633035&wfr=spider&for=pc