酒徒行状記

民俗学と酒など

鳥類の味の多様性を求めて

 去年から水道橋のカフェバー<BASE CAMP>のA-Sukeさん(

 @A_suke_BaseCamp )に鳥のエアライフル猟につれて行ってもらっている。

 

www.cafe-basecamp.com

 考えてみると、我々は普段、鳥は鶏肉ばかりを食べていて、それ以外の鳥類について味を知らずに生きている。

 魚で例えると、マグロばかり食って、そのほかの魚に見向きもしないような状態である。

 食文化研究を志す者として、鳥類の味の多様性を無視していていいのだろうか。

 いずれはエアライフルの資格を取って、様々な鳥類の味を試してみたいと思うが、まずそれ以前に、今回の猟も含めて自分が今まで食った鳥類を整理して記録する。(なお、食材目線で考えているので、種だけではなく、品種やブランド名による区分も入っています)

 

■鶏

 ・鶏肉:ジビエを食べ始めると気づくのは、家畜化され流通に乗る牛・豚・鶏のおいしさである。個体による味の差が少ない。安定しておいしい。臭みがない、というのはやはり素晴らしいことである。

 

 ・烏骨鶏:昔、愛知県東栄町中設楽の祭礼を調査中に、神社に生きた烏骨鶏が奉納されているのを見た。祭礼が済んだ後、「あげるから、持って帰って捌いて食ったらどうか」と住民に言われたけども、当時の私には捌く技術がなかったので固辞してしまった。

 今から思うと惜しいことをした。その後何度か居酒屋で烏骨鶏を食べたが、少し固めで淡泊な肉質だったように覚えている。

 

 ・東栄チキン:東栄町の調査で思い出したので付記。これは愛知県東栄町で生産される肉用若鶏加工品ブランドの総称である。

 おいしいのだけど、民俗調査中、宿の3度の食事がこればかり(というか連泊を想定しておらず、毎日同じ献立だった)だった。 

 東栄町の民俗調査は大学院での共同の調査で、複数名で1年から2年くらいの間で5回~6回くらい現地を訪れ(1回、3泊~4泊程度)、民俗調査報告書を書くものである。さすがの指導教官(福田アジオ先生)も東栄チキンを食い飽きて、「地元の居酒屋がオードブルの盛り合わせサービスやってるようだ。調査の最終日はそれを食べて打ち上げとしよう」と地元居酒屋にオードブル盛り合わせを発注したところ、それにも東栄チキンが入っていて、皆で苦笑いをした思い出がある。

 調査中はあんなに辟易していた東栄チキンだが、不思議と皆最終日には東京へのお土産に冷凍の東栄チキン買っていた。

 最近は東栄町も行ってないので東栄チキンもしばらく食えていない。こう文章を書くとまた食いたい気もする。

 

名古屋コーチン

 池袋の上海料理屋「大ウ邨(だうつん)」では「三黄鶏」という料理を出す。

 中国各地でみられる「白斬鶏」(茹で鶏のぶつ切り)料理の一種だが、この料理は<三黄鶏>という羽毛と爪と嘴(羽毛黄、爪黄、喙黄)が黄色い品種の鶏をつかうことから、料理名が名づけられた。

 しかし大ウ邨では、日本では三黄鶏が入手しにくい場合もあるので、名古屋コーチンで三黄鶏を作っている。

 名古屋コーチンは明治期に名古屋在来の地鶏と中国産のバフコーチンが掛け合わされたものだから、肉も三黄鶏と近いのかもしれぬ。

 名古屋コーチンの三黄鶏もおいしいけど、三黄鶏でつくる三黄鶏も食べてみたいものである。

 

■軍鶏

 時代小説を読んでいると気になるのが軍鶏である。坂本龍馬は殺された晩、軍鶏鍋を食おうとしていたし、池波正太郎鬼平犯科帳では五鉄で軍鶏鍋を食べるシーンが頻繁に出てくる。

 私自身、軍鶏鍋は食ってて、うまいと思っているのだけど、普通の鶏肉とくらべてそこまで違いがあるかはあまりわかっていない。

 まだ食に対する解像度が低いということなので、いずれ食いに行って確認しなくては。 

 

■ウズラ

 子供のころ伊豆に、友人の家族につれて行ってもらって、初めて食べた野鳥がウズラだった。

 大人になってからは、焼き鳥屋でも食ったはずだが、どこの焼き鳥屋か覚えていない。後述する早稲田の鳥安かもしれない。

 それとは別にスズメと一緒に伏見稲荷で友人と一緒に塩焼きで食った記憶はある。

 骨が多いが、スズメより多少食いでがあるなと思って齧っていた。串焼きよりつくねの方がおいしいんじゃないかと今でも思っている。

 

■スズメ

 早稲田の駅前の鳥安は冬場になるとカエルとスズメの串焼きを売っていて、学部生の時、時々食っていたが、個人的にはカエルの方がおいしいと思っていた。

 また、伏見稲荷でも先輩のMさんとその娘さんとスズメを食った。娘さんは怖がって食わなかった。

  この文章では 

頭の部分を噛むとトロっとした脳みそが口中に広がり、鼻からスルメにも似た匂いが抜ける。体の部分を食べ進めるとレバーに似た匂いや骨のばりばりとした食感、そして肉の固さが、野生の小鳥を丸ごと食べていることを感じさせる  

とあるがレバーっぽい風味や、骨のパリパリ感は覚えているが、「あたまのトロっとした食感」はあまり感じられなかった。

 また食って確認しなくては。

 

ホロホロ鳥

 10年前くらい練馬は平和台の居酒屋で食ったはず。

 赤身の肉で脂身は少なかったように覚えている。

 ちょっと筋肉質だったが、おいしかったように覚えている。ただ、食鳥の女王とまでうまかったかは…味の記憶いまいち不鮮明なので、また食べたい。

 

エミュー

 やはり昔、神田あたりの居酒屋でローストビーフみたいにして食べた。くせのない肉で、淡泊であった。 

 

■ダチョウ

 所属しているNPOの企画で「進化を食べる」という企画をやった時にたべた。エミューに似ているが、エミューよりかなり筋肉質で固めだったように覚えている。

 鉄鍋のジャンででた「サシ入りダチョウ肉(但しサシはウジ)」は一度食べてみたい。

natalie.mu

 それにしても、この『鉄鍋のジャン2nd』のインタビュー面白いな。

 

■アヒル

 北京ダックでよく食っている。

 昔、クリスマスイブに、麹町の中華料理屋<味仙>で、独身者の男の友人を集めて。「世間は七面鳥やケンタッキーを食っているが、我々は北京ダックを食おう」という会をやったことがある。

 ここの北京ダックは、皮を賞味した後、身をスープにしてくれて出すので、男三人でも食いでがあった。

 北京ダックは昔、上司に銀座の全聚徳につれて行って食べたのが初めてだったが、その時は皮だけしか食べられなかった。

 全聚徳の北京ダック。あれはあれでおいしかったが、気の置けない友人たちと恋人持ち・伴侶持ちへの呪いを込めて、全体を食う北京ダックは、またことさらうまいものであった。

  アヒルは北京ダックのほかにも、最近は鴨脖なんかでいただくことも多い。高田馬場の 皇小丫(ファンシャオヤー)の鴨脖はたいへんおいしかった。

 

 

tabelog.com 

■アイガモ

 合鴨は鴨とアヒルの雑種である。町中の蕎麦屋などで出てくるアイガモは実はアヒルという話があるが、よくわからない。

 わたしはよく、職場の近くの「日の陣」でつけそばを食べるのだが、ここは肉汁そば(豚肉)と鴨汁そばが選べる。

 この店の鴨汁の方は合鴨で、脂がのっていて旨そうなのだが、肉の味の濃さは残念ながら豚に負ける部分がある。他の店の合鴨も食べ較べねばと思っている。

 

■狩猟鳥獣

 さて、日本で2023年現在狩猟対象となっているのは以下の26種に限られている。

 カワウ、マガモカルガモコガモヨシガモヒドリガモオナガガモハシビロガモホシハジロキンクロハジロ、スズガモ、クロガモ、エゾライチョウ、ヤマドリ(コシジロヤマドリを除く。)、キジ、コジュケイ、ヤマシギ、タシギ、キジバトヒヨドリニュウナイスズメ、スズメ、ムクドリミヤマガラスハシボソガラスハシブトガラス。 (狩猟制度の概要 || 野生鳥獣の保護及び管理[環境省] )

 

 以下食べたことのあるものを記していく。 

 

コガモ

  ここにも書いたが、少しレバーっぽい風味とくせがある。脂もそれなり。

 これは赤ワインと合わせたい鳥であった。

 

・バン

  今回、この記事を書こうと思った一番のきっかけとなった鳥。

 バンは、2022年までは狩猟対象鳥獣だったが、2023年から対象鳥獣から外されてしまい、もう食えなくなったのである。

 2022年に初めて食べて、「これは旨い。普通に焼き鳥屋で売っててもいいやつだ」と感動した鳥だった。

 鶏肉に似た味でくせはまったくない。ほど良い脂が出てうまみも多い。

 

 

 

  上のツイートでもつぶやいたが、江戸時代の五大珍味である三鳥ニ魚(三鳥ツル、ヒバリ、バン。二魚アンコウ、タイ)のうち、もうこれで三鳥いずれも食べることが叶わなくなってしまった。

 下記の表が示すように、一度狩猟鳥獣から外れてしまうと、復活することはまずないので、 まさか2022年が初めての出会いで食い納めになるとは…とても悲しい。今のうちに味わえるものは味わっておかねば。

 しかし、今年、猟場ではオオバンをよく見たので、せめてオオバンは食えるようにならないものか…

 

狩猟鳥獣の変遷(2022年)

出典:鳥獣保護管理法に基づく狩猟鳥獣等の見直しについて(諮問)(中央環境審議会自然環境部会野生生物小委員会) https://www.env.go.jp/content/000038220.pdf

 

ハシビロガモ

 人生で初めて捌いた野鳥。 

  たしかに羽毛を取るのは大変だったが、その努力もあって味は旨く感じた。

 コガモに比べるとクセはあるが、バーボンやシェリーフィニッシュのスコッチみたいに甘みのあるウイスキーと合わせると、クセとマリアージュして実にうまい。

 

 以上が2023年2月現在、私が食べたことのある鳥類である。

 今後、新しく鳥を食べたら補記していきたい。

 まずはキジかキジバトが食べたいものである。

 なお、A-Sukeさんの店は下記漫画『スローループ』のモデルになっているので興味ある人は行かれるとよいかと。

 

 

 ただし、A-sukeさんはこんな美人のおねーさんではありません。