酒徒行状記

民俗学と酒など

【2024年4月後半】今月の一日一論文:「金庸の武侠小説と当代中国社会主義文化 」「中国山西省の食文化-穀類の料理を中心として」「ロングセラー・ブランド化への挑戦 ―「ザ・カクテルバー」にみる新カテゴリー創造の商品開発―」ほか

【2024年4月後半】今月の一日一論文。

 この期間は、いろいろ忙しくて、結構前に読み貯めた論文を紹介している。(一日一論文だけど、さすがに毎日読めない時もあるので、ストックを基本作って紹介しています。)

 読み貯めてるのは食文化系が多いので、やはりそれが中心になってしまう。

 

 そういえばこの期間、福島県廃炉資料館と1F(福島第一原発)を見に行ったのだった。

 1Fや資料館のなかは写真撮影できなかった*1が、 この原発事故により、地域の暮らしがすべて変わってしまったことを思うと、考えさせられるものがあった。特に資料館から1Fに行くときに見た神社*2の桜の景色はきれいな分非常に物悲しく見えた。

 

 写真は1Fに最も近いショッピングモール<さくらモールとみおか>の唐揚げ弁当。

 やはり肉体労働の方が多いのか、ものすごくボリューミーな弁当であった(私は食いきれず、学生に唐揚げは分けた)

さくらモールとみおかの唐揚げ弁当(唐揚げ四個入)

 

【中国文化】

金文京「金庸武侠小説と当代中国社会主義文化 」

 

 久しぶりに金庸武侠小説を読んでいる。

 私は虚淵玄→(霹靂布袋戯)→古龍の流れで 武侠小説にはまったので、どっちかというと古龍派なのだけど、やはり金庸も面白い。 本論文は、金庸の経歴の概略及び、現代中国における金庸の文学評をまとめたもの。

 金庸の経歴を見ると香港の返還と民主化運動と天安門事件がやはり彼の人生の一つの転機になっていることがわかる。

 また本論文では金庸漢民族と異民族との間での王朝交代の時期を舞台にしていることについて、漢民族ナショナリズム的史観を脱し、漢民族王朝、引いては中国史自体を諸民族との関係、抗争の中で、より客観的、あるいは批判的に描こうとした」とし、「漢民族少数民族全体を含む中華民族という融和的、大統一的な思考とは、似て非なるもの」とするのは炯眼と思われる。

 後半の文学評については二次創作などのブームによる影響にも触れてほしかったと思っている。

 金庸の評伝については神奈川大学のこのブックレットも面白い。ていうかよく金庸を日本に招聘したな。神奈川大学すごい。

 

 『金庸は語る: 中国武侠小説の魅力』 (神奈川大学評論ブックレット 24)

honto.jp

 金文京氏は中国文学研究者。『三国志の世界 後漢三国時代』(中国の歴史04)や『漢文と東アジア 訓読の文化圏』などの著作がある。『射雕英雄伝』の訳も行う

金 文京 (Bunkyo Kin) - マイポータル - researchmap

 

【食文化】

水谷令子 「中国山西省の食文化-穀類の料理を中心として」

 山西省の風土と食文化を紹介したレポート 山西省では黄土を耕し、小麦・トウモロコシ・ハダカエンバク・アワ・ソバ、豆類があり、また省都太原では晋祠米という銘柄米もあるとする。

 また煉瓦と土で温室を作り、中国第一の採炭地域であることから石炭を利用した黄土高原温室で青物野菜を栽培している。食文化としては羊肉が主であり油はヒマワリ油を使用するとする。

 湯麺には拉麺、龍髭麺があり、麺に肉汁やトマト入りのソースをかけて混ぜる拌麺が多い 切り麺には悍麺・切麺・打麺があり、日常食では小麦に大豆や玉蜀黍粉も混合する 粉糸または豆麺は緑豆澱粉を使用した押し出し式の麺であり、飴餡麵は小麦粉を押しだして成形する

 擦麺も押し出し麺で大根突きに似た道具でハダカエンバクなや大豆粉を使う 剔尖(ティジャン)は刀削麺と似たものだが、刀削麺より小さい刃物で削る。 猫耳朶は小麦に大豆やソバ粉。玉蜀黍粉を混ぜて作った生地を使う。生地に伸展性がないため、道具も使わず、技術のいらない簡単な料理方法となっている

 その他、撥魚麺(ポーユイミェン)、莜麺(ハダカエンバクの蒸麺)、粉皮、煨麺、饅頭、焼餅、油餅、帽盒餅、(マオヘピン。頭脳と呼ばれる八珍スープにちぎって入れる)などを紹介する。

 黄土高原が米栽培に適さず、また小麦の生産も十分ではなかったことから寒冷地などでも栽培できるソバ・アワ・ハダカエンバクなどを麵として食べ、また生地の伸展性などの問題から、様々な調理方法を生んだとする。

 山西料理は山西亭でしか食べたことがなかったが、生地の伸展性が多様な料理法につながったというのは気づいていなかった。地理が料理に影響を与える好例であるといえる。

 また、下記のDPZの記事を再読してオーツ麦=エンバクということに気づいた。

 麺の料理方法が多数あるのは、グルテン不足によって生地が伸びないのを補うためでもあるのだ。

 あああ、山西亭またいきたい

寶剣久俊 小麦粉と米が彩る(中国の食卓 世界は何を食べているか ─第三世界の主食)

 中国農業の五つの地域分類(1華北・東北畑作地域、2華東・華南水田地域、3西北内陸農業地域、4青蔵高原地帯)について触れ、主要な農業地帯である1と2について、淮河=秦嶺ラインが境界であることを解説。

 北方地域の粉食、南方地域の米食については、少し中華料理好きな人なら知っているが、農業地帯と関連づけることで理解がしやすくなる。 また四川は、四川盆地と山岳地帯の影響により南方であるが麺を広く食する例外的な地域というのも地理として重要な指摘である。

 南糧北調が、北糧南調に変化した点、若者の主食離れなども記載。 なお、本特集は2007-2008年のバイオマス燃料人気高騰による世界食糧危機を契機として組まれたものであるが、2007年段階では中国は穀物増産の支援と禁輸により主要穀物の国内価格は安定したとのこと。

 この時期の具体的な中国の農業政策については

 阮蔚「高投入と高価格に向かう中国の食糧生産」(日本国際問題研究所 『国際問題』(2008年12月No.577)

https://www2.jiia.or.jp/kokusaimondai_archive/2000/2008-12_004.pdf?noprint

 に記載あり。

 また「東アジアの肉食を考える」(吉田忠) にも中国の豚肉の記載有り 「大部分が脂肪で赤肉は先端に少しだけという豚のブロック肉があった。その後、豚肉を料理の主食材として使うのは料亭等だけで、一般家庭ではこの種の肉を野菜料理等で調味料的に使うのが普通」とのこと

 「東アジアの肉食を考える」(吉田忠) 特集にあたって (特集 世界は何を食べているか -- 第三世界の主食)

アジア経済研究所学術研究リポジトリ ARRIDE   

 寶剣久俊氏は農業経済学, 中国経済論。著書に「農業――農業大国の実態とその構造転換」(川島真編『ようこそ中華世界へ』昭和堂)、『産業化する中国農業-食料問題からアグリビジネスへ-』などがある

研究者詳細 - 寳劔 久俊

 吉田忠氏は農業社会構造 , 食料農業経済を研究。『牛肉と日本人 和牛礼讃』などあり。博士論文「関西における鶏肉流通の展開過程」は気になる

吉田 忠 | 研究者情報 | J-GLOBAL 科学技術総合リンクセンター

 

片寄 眞木子 「近畿の豆といもの食文化」

 日本調理学会の特別研究「豆といもの調理文化共同研究」 で確認された兵庫県の伝統野菜を紹介したもの。 丹波黒大豆、丹波山の芋、富松(とまつ)の一寸豆(そら豆)、田能の里芋、尼芋(サツマイモ)を紹介する。

 2002年の論文で、丹波黒大豆がちょうど地域ブランド化していく時期で、「最近,全国的に人気がでているのが,丹波黒大豆の枝豆である」と記載がある。

 また、丹波山の芋のとろろに関しては「篠山市に近い三田市三木市では,1月2日の朝,朝風呂に入ったあと,とろろ汁を食べる」との記載がある。 これは関西では珍しい「三日とろろ」(正月2日または3日にとろろを食べる食習。主に東日本や中部で行われる)の風習ではないかと思われる。

 尼崎の伝統野菜については市のサイトも詳しい

www.city.amagasaki.hyogo.jp

 片寄眞木子氏は兵庫、但馬地域の食文化の研究を専門とし、論文に「近畿地方における魚介類の料理」「「尼いも」復活とサツマイモの食文化展開」などがある。

片寄 眞木子 (Makiko Katayose) - マイポータル - researchmap

青木 幸弘 「ロングセラー・ブランド化への挑戦 ―「ザ・カクテルバー」にみる新カテゴリー創造の商品開発―〔サントリー株式会社〕」

 1990年代。まだ私が酒を知りそめしころ(バーに入れる年齢ではまだなかった)、「ザ・カクテルバー」というサントリーの瓶入りコンクタイプのカクテルが売られていた。他社製品が缶入りの低アルコールかつ甘味の強い飲料を売る中、このシリーズは瓶入りで高級感を出し手差別化を図っていた。
 また、ラインナップもジントニックシンガポールスリングスクリュードライバー、バイオレットフィズ、といった、カクテルブックで見たカクテルを揃えていて、当時カクテルに興味を持ち、カクテルブックを読み始めた私にはとてもありがたいシリーズであった。
 本報告は、この商品の開発経緯や販売方針・広告戦略をまとめたもの。私自身も魅力に感じたが、徹底した「色味」を追求した商品開発をしていたこと強調されている。 サントリーのリキュール、今でも味よりも色味を出すほうが得意なものが多いが、それは長年のノウハウによるものであったことがわかる。
 92年ロス暴動が本製品の開発のきっかけになったエピソードも面白く、また「アルコール市場の変遷」として戦後の低アルコール化の流れへの概略もわかりやすい。

 ちなみに当時の私は、花崎和夫氏のこのカクテルハンドブックを愛読していた。

 このカクテルブックは、他のカクテルブックに比して、写真がとてもきれいなのと、レシピだけでなくカクテルにまつわるエピソードが記載されていて、入門書としてオススメである。

 青木幸弘はマーケティング論、消費者行動論、ブランド論などの研究を行う。著書『マーケティングと広告の心理学』『消費者行動の知識』など多数。

青木 幸弘 (Yukihiro Aoki) - マイポータル - researchmap

 

 

愛知大学語学教育研究室 「「食」-世界の食卓をのぞいてみよう」

 今日は軽い読み物をば。愛知大学の語学教育研究室の「食」の特集記事より。 先生や学生が、タイ・中国・香港・ロシア・南ロシア・キューバ・ドイツ・フランス・中世英国・オーストラリア・アメリカ・カナダの食についてエッセイを記す。

 NHKの教育テレビで中国語を担当した荒川 清秀のエッセイも収録「東北料理は一般に量が多いが上海料理は量が少ない」というのはしらなかった。 またドイツの食(クノールネスカフェがドイツ発祥とのこと)、メキシコのチミチャンガなども気になる。

 キューバに行った学生さんが「心からおいしいと思えるものはあまりありませんでした」と書いてるのは素直。(ロブスターはおいしかった模様) 香港の食(塩山正純)で東亜同文書院の学生のコメントを引いているのはさすが愛知大学である・(愛知大学の前身が東亜同文書院) 外語大の文化祭巡ってみたい。 

 

【地理学】

杉浦匡 「東京郊外における宅地化にともなう農家の共用空間の変容に関する研究」

 

東京都小平市の短冊状地割を事例として農家同士の共用空間と、庭先販売所を取り上げ、その空間構成と実際の利用について検討した論文。小平巡検の講義資料、特に「たから道」に関して読む。

 東京都小平市は、1656 年(明暦2 年)小川九郎兵衛が開発した小川村(小川新田)が基礎となっており、青梅街道を沿いに「短冊状地割」が残る地域として知られている。

 短冊状地割とは新田開発の際に、入植者が均等に土地を割り、また効率よく道路や用水などのインフラにアクセスできるよう、インフラに直交する形で地割を行うことである。 小平の場合青梅街道とそれを南北にはさむように流れる用水を中心として、短冊状に土地割りがなされている。

 本論文では、その中でも、屋敷地と農地の間に形成された農作業場のうち、農作業以外に周辺住民が集う空間や行事の際に利用されていた「たから」とそれを接続する「たから道」について検討をする。

 「たから道」は農業の協力を目的とした利用だけでなく、農家が商店を設けたり、子供の遊び場や通学路であったり、地域住民の集う場所として、日常的に利用されていた。 しかし都市化が進み、「たから道」を周辺住民で活用する機会はほとんどなくなった。それと同時に、農道としても活用されなくなった。

 家同士の共用空間は、①ベースとなる農業利用が減少したこと②周辺に別の利便性の高い道が新たに設けられたこと③伝統的な地域行事に参加をしない匿名性の高い都市住民の増加により衰退したとする。

 たから道のマッピングが肝な論文。「たから」がどのように複合的に使われていたかはもう少し検討がいるように思われる。 特に「広場」の機能は、福田アジオの「日本の村落空間と広場」で示された、東日本の「ツジ」や「カド」の問題とも対比されるものと思われる。講義の「たから」巡検の際に案内できれば良いのだけど…(先日の下見では都市化したものしか見つからなかった…)

 たから道についてはこういうサイトもある。熊野宮側では残ってないものか。

kodairanet.tamaliver.jp

 荒川, 清秀 「近代日中学術用語の研究をめぐって」

 

 日中における近現代漢語の研究において、既存の中国における研究では在華宣教師や西洋人による翻訳書や英華・華英の辞書類が参考とされていないことを記す。 これは中国国内ではそうした資料が容易に見ることができない・存在しないためであるとする。

 マテオ・リッチの『坤輿万国全図』は日本では有名であるが。バチカンと京大付属・宮城県図書館にしかなく、中国では複製本などもなく閲覧は困難である。 また宣教師の雑誌も英国図書館や日本にはあるが、あまり中国にはなく、日本の研究者が有利であるとしている。

 また学術用語の研究は学際的でなければならないとし、科学史家の興味は概念の形成史や原語にあり、訳語の初出や古典にレファ―する国語学者・中国人学者とは興味の対象が異なることを上げる。その上で、ある分野ですでに自明なことが他の分野では論争になることとして、1980年代「病院」の語について和製漢語か否かが国語学で論じられていたが、すでに地理学者鮎沢信太郎がイエズス会士アレニの『職方外気』にあることを明らかにしていた例などを挙げる。

 「化石」の語についても、地学分野では平賀源内などが作成した和製漢語と説明するが、方以智の『物理小識』などにフレーズとして存在することを指摘する。

 地理学と言語学(中国語)の学際的な論文として、とても面白い。

 『近代日中学術用語の起源と伝播-地理学用語を中心に』については書評もあり。こちらも併せて読むとよい。

 荒川清秀著『近代日中学術用語の形成と伝播--地理学用語を中心に』 

https://bibdb.ninjal.ac.jp/SJL/view.php?h_id=1991161110

  荒川清秀(1949-2021)は日本の言語学者、中国語学の研究者。愛知大学地域政策学部教授を務める、博士(文学)。専門は日中対照研究、近代の日中語彙交流、現代中国語の文法と語彙など。NHK中国語講座にも出演。

  なお、「荒川清秀先生に聞く‒中国語との出会いから愛知大学へ」というインタビューもあり。「今の「普通话」は南方語の影響がなかなか強い」という指摘や 「「北京語」愛好者からすると、「儿化」はなくてはならないと思うかもしれないけど、だんだんと消えていくのではないかなと思っています」 「「等一下」というのは南方的な言い方だけど、(中略)北方に行くなら、「等一会儿」とか「等会儿」を知っておかないといけない」という記述は面白い。

「荒川清秀先生に聞く‒中国語との出会いから愛知大学へ」

 https://t.co/WiVptCCwYx

 

【フィールド関連】【自然史】

 根来健一郎, 後藤實, 成宮瞳 「石灰を多量に含有する滋賀県天野川の硅藻植生」

 

 琵琶湖に流入する河川の石灰含有量(Camg/1)は,大部分の河川では10以下で あ るが,芹川と天野川の2川だけは特に多く,30~50であることから、石灰含有量の多い河川での硅藻フロラを調査したもの とりあえず専門外だけど、フィールド先(米原市世継)を対象にした論文なので読む。

  世継では(サンプル採集世継橋付近) Cocconeis placentula var, euglypta-Nitzschia pales-Diatoms vulgare var. products-Association の硅藻群叢が優位に見られたとのこと。 伊吹山があるから県内の河川もっと石灰の含有率高いと思っていた。

謝辞に口分田(くもだ)政博氏の名前が出ている。滋賀の自然史(鳥類)の研究では有名な人なので名前を覚えておこう。

*1:1Fについてはテロリスト対策で写真撮影禁止なのはわかるが、資料館は撮影可にすべきだと思う。炎上をおそれてだとは思うが、隠蔽体質が変わってないと疑われるのではないかと…

*2:たぶん大和久妙見神社