酒徒行状記

民俗学と酒など

練馬春日町「鹿島湯」

 手を怪我してから、リハビリもかねて銭湯に入ることが多くなった。
 本当なら、銭湯でなく温泉に行きたいのだが、金もなければ休みもない。都内の温泉に漬かるのもよいが、ラクーアだとか大江戸温泉物語といった23区内の大型温泉は、一日中入れるものの、2000円ぐらいして、しかも塩素のきつい循環湯だったりする。
 古くからある温泉銭湯ならまだよいが、こう懐がさみしいと交通費を出すのも億劫だ。
 そこで、実家の近所にある銭湯に歩いて行くことにした。

 銭湯の名は「鹿島湯」。大江戸線−私は12号線の方が言いやすいのだが−の練馬春日町の駅のそばにある。
 何でこの銭湯が気になっているかというと、この鹿島湯という名前である。
 鹿島といえば、茨城県鹿嶋市鹿島神宮が有名だが、私は怪我をする以前、この鹿島神宮の祭神を奉る古武術をしていた。
 いずれ稽古は再開しようと思うが、今現在、手は日常生活にはそんなに支障はないものの、拳をきっちりと作ることができず、まだ稽古にはは復帰できないでいる。
 そんななかでこの鹿島湯を見つけ、「なんだか霊験あらたか名前じゃ」と興味を魅かれた次第であった。

 梅雨の中休みで、天気は良く、初夏を感じさせる風が吹いている。
 靴箱のあたりはほの暗く、番台と靴脱ぎの間はタッチ式の自動ドアになっていた。
 脱衣場の天井は格天井になっていて、さくら社製の古い合板木製のロッカーになっている。
 「盗まれて泣くより、盗まれぬ用心」という板の間稼ぎを警戒した標語も古めかしい。
 男湯と女湯は一つの建物として造られ、真ん中を、天井までは届かない壁で仕切る構造になっている。銭湯には関東式と関西式があるという話だが、先日入った十条の久保湯と同じ構造なので、これが関東式なのであろう。不勉強にして正しい言い方を知らない。
 壁はタイル絵ではなく湖と白い山を写した、上高地を思わせる写真であった。女湯の壁絵も上の方が見えたが、雪山の森の中という体であった。
 風呂桶はそう大きくないが、3ユニットに分かれていて、2つの湯にはバスクリンのレモンが入れられている。一つは深く、マッサージになるように腰と足にあたるようにバイブラがつけられている。もう一つは浅めだが、弱いバイブラで泡立たせている。
 そしてもう一つは、何も混ぜない、水風呂であった。
 洗い場の脇にはアルミのドアがあり、そこを空けると名物天然石の露天風呂となっている。
 露天風呂は二人も入ればいっぱいになる狭いもので、眺めなんてないに等しいが、それでも、風呂から空が見えるのは気持ちいいのと、湯温が少し温くなって、長湯にはちょうどよい。
 そしてありがたいのは、内湯の水風呂の存在である。あまり銭湯で水風呂があるのは見たことがなかったが、何度も湯と水を往復し、ゆっくり風呂を楽しむことができた。もっともあんまり交互に入ったせいで、生まれてはじめて、湯あたりしかけてしまったのは誤算だった。 
 きっとこれで手もよくなるだろうと、思いながら風呂に入ることができたのであった。