酒徒行状記

民俗学と酒など

ズブロッカ

 ズブロッカを近所のスーパーで買った
 今年の初買いじゃ。660円なり。
 何故か正月になるとズブロッカを呑みたくなる。青いバイソングラスの匂いが春を感じさせるようでなんとなく正月に合う気がしている。
 いうなれば私にとってのお屠蘇である。まあ、ポーランドではズブロッカは強精作用があると言われているし、薬効もちゃんとした屠蘇散とどっこいどっこいだろう。
 私がズブロッカを初めて呑んだのは、まだ酒の味を覚え始めた10代のころだった。
 すでに私より飲み手だったTという高校の同級生の家に泊まりに行って、冷凍庫に入れてトロトロになったズブロッカを振舞われたのが馴れ初めだった。日本酒や焼酎なんかはもう飲んでいたが、ホワイトスピリッツを呑むのは正直、当時の私は初めてであった。
 グラスに注いだときの酒の粘度の驚異。あんなにアルコールがなるとはそれまで知らなかった。グラスの霜のつき方。顔を近づけると感じられる冷気と青みがかった匂い、舌を冷やした後にたちまち来る喉への刺激。そして鼻から口へ抜ける馥郁とした香り。
 今でもあの時のズブロッカの旨さは舌にありありと思い出す事が出来る。ホワイトスピリッツに目覚めた一瞬であった。
 Tとは残念なことに、進路が違ったせいか高校を出てからはあまり音信がない。
 ただ、たまたま共通の友人に聞けばアメリカに渡って演劇を勉強していると言う。そういえば、私が泊った夜も劇団四季の『CATS』の良さについて熱く語っていた男であった。
 もし今度会うことがあれば、彼が呑んだ事のないホワイトスピリッツを振舞ってやろうと思っている。
 ジンがいいだろうかウォッカがいいだろうか―そのときの銘柄をあれから考えながらズブロッカをの呑むのも私の楽しみの一つである

 ところで、私はまだ屠蘇散を漬け込んだちゃんとした屠蘇というのを呑んだ事がない。
 職場の女性が『うちは屠蘇散を漬けたちゃんとしたお屠蘇を正月呑むの』と言ってたのを大晦日に思い出し、近所で探したのだけれど皆売り切れていた。屠蘇散は来年の課題にしよう。
 あれはうまいものなのだろうか?