酒徒行状記

民俗学と酒など

生島治郎『夢なきものの掟』

 日本の冒険小説・ハードボイルド作家の草分け、生島治郎の作品を初めて読んだ。
 時代が(書かれた当時の)現代ではなく、日華事変直前の上海を舞台にしているせいか、古さをあんまり感じさせない冒険小
説であった。どうしても古い時代の日本のハードボイルドのなかには、古臭さを感じてしまって受け付けないものもあるのだが、これにはそれがなかった。
 主人公は紅真吾。彼は前作『黄土の奔流』で一緒に仕事をし、相棒となった友人、葉村が阿片の中毒者になり密売人となったという話を聞き、その男を救い出すべく動くうちに、青幇・日本軍・社会主義者の三つ巴の争いに巻き込まれるというものである。
 さて、この小説でまず興味を引かれたのはこの『夢なきものの掟』というタイトルである。というのは、以前これに似たタイトルで『夢の掟』という漫画を読んだことがあったからだ。
 「夢の掟」は、原作真刈信・作画山本貴嗣ヤングアニマルで連載されていたアクション・ハードボイルド漫画である。原作者は国際謀略物の『勇午』で有名な原作者であり、山本も独特な殺陣(映画のようなを殺陣ではなく、武術を極力リアルに書こうとする)で有名な人物であり、この『夢の掟』も非常にサスペンス・アクション共に揃って面白い作品であった。(しかし、途中、原作と作画で行き違いのため仲違いをし、結局、尻すぼみな打ち切りのような形で、終わってしまった。)
 この漫画のことが頭にあったため、読みながらイメージは全て山本貴嗣の絵で想像しながら読んでしまった。なんとなく主人公のや登場人物の造形も山本の描く人物としっくり来る感じで、そのせいもあり楽しく読めた。
 やはりこれも、『黄土の奔流』の他シリーズになっているようである。
 生島治郎はなかなかBOOK-OFFなどでは入っていないが、見つけ次第、適宜、確保したく思う。