川端裕人「リスクテイカー」(文藝春秋社2003.10刊)読了。
アメリカ、コロンビア大学のMBAを卒業した、日本人ケンジは、同じ大学の物理学研究生ヤンが作成した画期的な為替予測システムをもとに、級友と進行ヘッジファンドを設立する。
「T(turbulence)-ファンド」と名づけられたそれは、ジョージ・ソロスと並び称される、凄腕ファンドの元プレーヤーの老人を資本主として、気鋭のヘッジファンドとして名を高めていたが、為替の暴落により、資本主の老人ルイスのファンドに吸収されてしまう。
老人ルイスの目的は何かー百万ドルを1bar・2barと数え、100万ドル単位でハイリスクとハイリターンが発生する、若きリスクテイカー達にとって「マネー」とはなにかー
私には、ヘッジファンドや為替の知識はほとんどないが、それでも面白くぐいぐい読めた。この書を「小説の形をした経済の教科書」と評価した人がいると聞くが、なるほど、勉強になった。
特に作中、大学教授ハーバードを通して語られる、マネーの歴史と哲学は非常に示唆に富んでいて面白かった。丁度今、滋賀県長浜で貨幣の代わりに使われる「切符」という制度について調べようとしていたこともあり、面白く感じたのもあったのだろう。
さらに、アジアの通貨危機やロシア危機といった現実の出来事や、FRBのグリーンスパン議長といった実在の団体や人物を描くことで、経済から見た現代史を考えることが出来た
個人的に、インドネシアの通貨危機あたりは、その頃ジャカルタに行って、焼き打ちにあった銀行や商店を見たことがあり、興味深く読めた。
前作、「夏のロケット」も面白かったが、多少、荒唐無稽すぎる気がして、評判ほどには面白さを感じなかったが、今回の「リスクテイカー」は実に面白かった。正直なところ、文中多出する経済用語の総てを把握はしきれていないが、人間にとってマネーとは何か・通貨で通貨を買うというのはどういうことなのか、経済学の教科書でもみながら、もう一度読み返してみようと思っている。