酒徒行状記

民俗学と酒など

神田「いこい」

 新しく仕事を一緒にすることになった、女性の同僚に急に誘われて呑みに行くこととなった。
 前にその同僚から、宮崎の郷土料理「冷汁」を旨く食わせるところがあると話をきいたのだが、今日皆でそこに行こうと思うので、私にもお声がかかったのであった。
 冷汁とは何かというと、宮崎の夏の郷土料理で、要は冷たい味噌汁をご飯にかけた冷製猫まんまである。ただ、通常の猫まんまと違うのは、いろいろ出汁をとったり、ゴマ風味をつけたりといろいろ凝った猫まんまにするのである。
 以前テレビで、これの作り方をやっていたのをみて、夏に一度食って見たかった食べ物ひとつであった。
 昨日は十条で痛飲したが、めったにない女性からのお誘いでもあるし、念願の冷汁でもあるしで、一も二もなく参加した。
 ところが、終業後、「冷汁、冷汁、冷汁じゃ」といまだ見ぬ食い物に心をときめかせていたところ、参加できない人が出たため、冷汁はまたの機会にお流れになってしまった。仕方ないので、その女性のもう一軒お勧めの神田の「いこい」というところで軽く簡単に呑むこととした。
 何でも、カフェだが、酒も飲めて料理も旨く、何より椅子が良いとのことである。
 「椅子?椅子がいい?」
 「ええ、私、椅子フェチなんです。あそこの椅子はすわりごこちがいいんです。」
 大抵、カフェなんてのは椅子を硬くして、回転効率上げるのが相場なのに、珍しいことだ。
 地下鉄の神保町から路地を二つくらい曲がると、いこいはあった。
 入り口の看板には「男の子の部屋をイメージして店をレイアウトしてみました。」とある。こんなしゃれた男の子の部屋なんざぁあるわけないと」心の中で毒づきながら店に入った。家のレイアウトの雑誌を見ているといつも思うのだが、モデルとして出てくる部屋の写真には、どれも本棚が写っていないのはなぜだろう。いつも収納に困るのはたまっていく書物だというのに。
 予約をしておいた席に座る。面子は、同僚3人、それに私の4人である。この店につれてきてくれた同僚の男の友人が遅れてくるらしいのだが、それまでは男性は私のみであった。慣れないので緊張することだった。
 軽くビールを飲み、メニューを見るとイタリア料理風なメニューが多かった。そば生地で薄いピザを作りその上にゴルゴンゾーラを乗せ、蜂蜜とりんごを飾ったものが旨かった。そば生地は無理でも、家でもできそうだ。よいつまみを教えてもらった。
 同行の同僚たちはそう呑むこともないので、私も控えめに呑んだ。ビール・ワインクーラー・シェリー。カクテルは普通くらいだが、久々に飲んだシェリーはうまかった。同僚の一人で日本酒が好きな女性がいるが、勧めると気に入ったようだ。
 やがて、同僚の友人も来たが、雨もひどくなったので小一時間で店を出た。カフェで呑む酒もいいものだ。
 酔いは微醺。ふらふらと職場のある永田町に戻ると、昨日酒を飲んだ先輩のSさんと偶然にも鉢合わせした、呑み足りないこともありそのまんま、和民で二次会とその日は相成った。