酒徒行状記

民俗学と酒など

進む者は別れなければならない

 職場で「レファレンスサービスにおけるメーリングリストの可能性と課題」という研修があった。
 私は酒を呑んでいない時は、都内のある図書館で勤めているので、こんなタイトルの研修が行われるのである。内容は図書館関係者のみのメーリングリストを立ち上げて、利用者からの資料捜索の依頼などに答えるための事例データベースや検索方法の情報共有を行うというものであった。
 現在いる部署はレファレンス(利用者からの文献調査などの依頼をこう呼ぶのだ)とは直接関係はないが、以前、私が大学で図書館学の講座を受けたときは、レファレンスといえば辞書や事典などの1次資料から探して、それから目録などを当たり、その上で初めて目指す資料を見つけ出すというのが基本だったのに、現在では、真っ先にネットで検索をするレファレンサーが多いのに改めて驚いた(かくいう自分も大抵は真っ先にググって調べるが)


 さて、研修の内容とは直接関係はないが、レファレンスの事例として以下のようなワーズワースに関する事例が出ていた。
 「ワーズワースの詩の一節に『進む者は別れなければならない』という言葉があると、朝日新聞天声人語のある人の回想として出ていた。この言葉がワーズワースのなんと言う詩にあって、原文はなんとなっているか?」
 このメーリングリストでは、天声人語の記事の中で登場した人物は、原文が本当にワーズワースにあるかどうかは確認していないこと、ワーズワースの詩はネットで全文を検索することができるが、検索できるのは英文のためどれが該当するのかは不明なこと、別の詩人の詩の一節に似たような文句があること、までは分かったが、これが原文だといえるものは見つからなかったとのことである

 あとは原文・訳本を一つずつ丹念に当たるしかないとは思うが、なんだか講義の内容よりも「進む者は別れなければならない」という語のほうが心に残った。
 なんとも勁くて悲しい言葉である。


追記:「進む者〜」をググったら、名文などを集めたホームページhttp://homepage2.nifty.com/Booo/wordsothers.htm
を見つけた。
その中には三国志曹操が義母との決別に送った「真訣矣(もう本当にお別れだね)」という言葉が出ていた。
これもまた、梟雄と呼ばれた曹操の人生を思うと、味わい深い言葉である。