酒徒行状記

民俗学と酒など

『草の乱』

 なかのZEROホールにて『草の乱』を見てきた。
この映画は秩父事件を扱ったものだが、丁度、今、関係する大学で小鹿野町の民俗調査をやっていることもあり、気になって見に行った。

 ストーリーは明治政府の逮捕を逃れて北海道で隠れ住んでいた困民党の幹部が、息を引き取る前に子孫に秩父事件の顛末を語るというもの。

 男の回想を通して、生糸の暴落による農民の困窮、高利の貸し金の横暴と、度重なる増税や言論の弾圧をおこなう官憲の横暴、これらを通し自由党主導による一斉蜂起の政府転覆の計画が成されるが、自由党の首脳の逮捕や切り崩しにより、一斉蜂起はならず、秩父のみがやむにやまれず困民党として蜂起する顛末ととその失敗が語られる。
 そして男は「秩父事件は決して明治政府が規定した農民一揆ではなく、世直しの思想を持った『革命』であり、子孫にはそれを後世に伝えて欲しい」と言って息を引き取るのであった。

 昨年の暮れに公開で池袋あたりで単館上映し、今回は映画製作に協力したグループが希望して1日だけZEROホールで行うものであった。
 そのため、まさかあるまいと思っていたが監督挨拶と劇の出演者のパフォーマンスがあった。
 監督の言によると「120年前の出来事だが、現代と非常に時代背景が似ている。120年前にこんなにすごい人々がいたことを是非知って、皆さんも現代のつらい時代に負けないようにして欲しい」とのこと

 どうしようもなく農民が追い詰められ、やむにやまれず決起していく姿はわかるのだが、いまひとつ盛り上がりにかける印象であった。
 困民党が決起するところがクライマックスなんだろうけれど、今ひとつ耐えに耐えて決起するという感じが伝わらなかった。
 男の「世直しの思想をもった革命」というのも、自由党員であった男の頭にあっただけで、実際の困民党は貸金を襲うだけで、革命を志向してたようには思えなかった。
 ただ、揃いの鉢巻・たすき姿で小鹿野の町を(セットが吉田町の道の駅に残っている)を疾駆するところはカッコが良かった。
 また、蚕を育てるシーンや生糸を紡ぐところなど、秩父の民俗がよく表現されていた。蚕棚を広げた横で農民が晩飯を食うシーンなんかは非常に興味深かった。


 感想を一言で言うなら「壮士芝居」かしらん。メッセージを伝えたいという意図やカッコよさはあるのだけれど、今ひとつ伝わりきらない感じが…
 多分、秩父事件を知らない人や埼玉の地理がわからない人には映画を見てもなんのことやら理解しにくいかもしれません
 もっとも時代背景から考えると壮士芝居ってのは良いのことなのかも。まさしく草莽の壮士の最後の時代の映画であるのだから