酒徒行状記

民俗学と酒など

T字帯考

 そもそも盲腸すらまだしていない私は、物心ついてから入院をするのは今回が初めてであった。
 はっきりと覚えている入院最初の第一の洗礼は、手術前につけるように言われたT字帯であった。
 T字帯というのは長さ70cmくらいの長細い白の木綿布で、短い辺の端の片方にやはり木綿の紐がついている。紐の部分と布の部分で丁度、Tの字を描くのでT字帯と名づけられた思しい。
そう、一度でも入院された方はお分かりだと思うが、これは要は褌である。
布をお尻の方に垂らす形で細帯を腰に回して臍前で結んで留めた後、垂れた布を前に持ってきて縛った横紐にくぐらせて、前を隠すようにするという褌である。
当初私はこれをなんに使うものなのかまったくわからず、「着けろと言ったって…」と病室で考え込んでしまったのであった。布の入った袋を見てもなんも使い方や装着法も書いていないのだ。
 やむなく、看護婦さんにおずおずと「すんません。これなんですが…」と尋ねたところ、右手を包帯でぐるぐる巻きにしているためにつけられないと勘違いした看護婦さんに、「あーれー」と抵抗する間のないほどの手際の良さで着けていただく羽目となったのであった。
口の悪い友人にこの話をしたところ「そーゆープレイができてええやんか」などと後で言われたが、当時はなんともハズカシイことであった。