酒徒行状記

民俗学と酒など

ラジオドラマの記憶

 友人に連れられて、池袋サンシャインに劇団キャラメルボックスの芝居を見に行った。演目は『スケッチブック ボイジャー』。

 もともと私は芝居を見る趣味はないが、キャラメルボックス成井豊が演出をしているという話を聞き、以前から見たいと思っていた。
 というのも、成井が脚本をしていたNHK-FMの青春アドベンチャーというラジオドラマを、中学生・高校生の時分よく聞いていたからであった。
 NHK-FMの青春アドベンチャーは、SFや、今で言うライトノベルなど(当時はライトノベルラノベなどという言い方はなく、YA=ヤングアダルトと言っていた)を原作にして10回くらいの続き物ラジオドラマとして放送する番組である。
 視聴者は「青春」の字が冠されているように中学生から高校生が多く、選ばれる原作もティーン・エイジャー向け(これも死語だね)のものが多かった。

 私はこの番組のおかげで、眉村卓新井素子(『おしまいの日』)・北野勇作(『昔、火星のあった場所』・藤井青銅(『笑う20世紀』・『超能力はワインの香り』)・草上仁(『お父さんの会社』『くたばれ!ビジネスボーグ』) ・藤本ひとみ(『ブルボンの封印』)、などを知ったし、ケン・グリムウッドやD・R・クーンツ、少しマイナーどこで、D・ツィマーマン(『北壁の死闘』)、 メアリ・H・クラーク(『アナスタシア・シンドローム』)、エイミー トムソン(「ヴァーチャル ガール」などの海外作品に触れたのもこの番組がきっかけであった。
 思えば、今の乱読の悪癖の一因はこの番組によるものかもしれない。そういえばこの番組で『ナルニア国』『ランド・オーバー』も知ったが、この分野はまだ未着手で原作は読んでいない。


 さて、今回の『スケッチブックボイジャー』も、なんとなく昔のNHK-FMの番組を劇つきで見ているようなイメージであった。

 ストーリーは、締め切りを明日に抱えた漫画家と編集者の掛け合いのパートとその漫画家の書く漫画の内容パートに分かれる。

 売れっ子漫画家野原は頭を抱えていた。担当編集者も頭を抱えていた。明日締め切りの『流星ナイト』のが一枚も出来ていないのだ。原因は一つ、編集者にも秘密でゴーストライターとしてネームを書いていた望月が、野原の姉と新婚旅行に行ってしまい、ネームが送られてこないからだった。止む無く、野原と編集者がネームを切って、一晩で仕上げることになる。
 『流星ナイト』は隕石が落ち大半の地表が水没した地球を舞台に、ひょんなことから宇宙一の金持ちとなった少年カケルと、それを追うタイタンの亡命皇女夕顔、宇宙海賊、海賊課の刑事、そしてカケルを殺そうとする親友コジローをキャストにした漫画である。
 前回は彼らが、宇宙港で銃撃戦に突入するところで終わっており、野原は今回、最終回として「何故、カケルが地球に着たのか、カケルは地球で何をしようとしているのか」を書かねばならない。
 望月のネームがないまま、野原が考えたネームは「カケルは宇宙で唯一残るサッカー場を、地球に探しに来た」というものであった。そして、そして何故野原がカケルにサッカーをさせたかというと、「高校生の時に憧れた男の子がサッカー部であり、気になるその子の姿をスケッチにしているうちに漫画が上手くなったから」であった。
 野原とのネームの作成の過程で、編集者はその理由に気づき、当初野原が考えていたエンディングではなく、全てのキャストを交えて、サッカーを行うというハッピーエンドのラストを考え、芝居は漫画家のパートと劇中劇の流星ナイトのパートが混ざる形でラストを迎えるというストーリーである。
 
 「SFとスポ根と恋愛と」と、青春アドベンチャーでよく出てくるモチーフが3つそろって、演出自体も派手な音楽(効果音)が多用され、少し仕立てればそのままラジオドラマになる芝居であった。実際目を瞑ってみていると、あのころラジオドラマにハマった自分というのが思い出されて、実に懐かしかった。
 最近はあの頃知った作家たちの作品を読んでいないけれど、機会があったらまた読んでみようと思う。
 キャラメルボックスの他の芝居もまた見たいものだ。竜馬物とか面白そうだ。