酒徒行状記

民俗学と酒など

多敵の位

多敵のくらゐと云ふは一身にして多勢とたゝかふ時の事なり、我が刀脇差をぬきて左右へひろく太刀を横に捨て構ゆるなり、敵は四方よりかゝるとも一方へ追ひ廻す心なり、敵かゝる位ゐ前後を見分て先へ進むものにはやく行合ひ、大きに目をつけて敵打出す位を得て、右の太刀も左の太刀も一度にふりちがへて、行く太刀にて前の敵を切り、戻る太刀にて脇にすゝむ敵を切る心なり、太刀をふりちがへてまつこと悪し、早く両脇の位に構へ敵の出たる所をつよく切込み追ひくづして、其侭又た敵の出たる方へかゝりふりくづす心なり、如何にもして敵をひとへにうをつなぎに追ひなす心にしかけて敵の重なるを見ては其まゝ間をすかさずつよく払ひ込むべし、敵あひこむ所ひたと追ひ廻はしぬれば捗行きがたし、又敵の出るかたゝゝと思へば待つ心ありてはかゆきがたし、敵の拍子を受てくづるゝ処を知りて勝つ事なり、をりゝゝあひてをあまたよせ追込みつけて其心を得れば一人の敵も十人二十人の敵も心やすき事なり、能稽古して吟味あるべきなり

宮本武蔵五輪書』より

忙しい。敵(仕事・課題)が多い・・