酒徒行状記

民俗学と酒など

『愚か者死すべし』原りょう

再読。
本作への大方の批評と同じように、期待した割には余り面白くないと初読のときは思ったが、再読してみて改めて本作の良さがわかった。

主人公がひたすら巻き込まれていくだけでストーリーにカタルシスがないという点が本作の問題として挙げられていたが、むしろこれはチャンドラーの作品のように個々の情景を愉しむものなのだというのに改めて気づいた。

会うたびに偽名を使う饒舌な男・富豪と年の離れた養女・富豪の秘密のフィルムライブラリー・引きこもりの少年・芸術家志望の弁護士カップルと車椅子の弁護士の三角関係、どれも本筋にからんではいるが、眼目はそこではなく、探偵沢崎との会話(特に沢崎のハードボイルドな回答を)たのしむべきなのであるである。
そういった意味では本作は最もチャンドラー的なハードボイルドであるといえるのではと思っている