酒徒行状記

民俗学と酒など

レイモンド・チャンドラー『プレイバック』

 こちらも再読。
 ただしこちらは、一読目は強くは印象に残らなかったものの、再読すると非常に面白かった。
 「あなたのように強い人が、どうしてそんなに優しいの?」に対する有名な答え「強くなければ生きていけない、優しくなければ生きる資格がない。(If I wasn't hard,I wouldn't be alive.If I couldn't ever be gentle,I wouldn't deserve to be alive.)」という台詞があるのも良いが、訳者も指摘している、話を通じての暗さと、ストリートは関係のない会話の部分(ホテルのロビーで日がな一日余生を過ごす老人との会話等)が非常に良いのだ。
 上手くない説明だが、『長いお別れ』がハードボイルドの一つの到達点とすれば、こちらはチャンドラーがイメージする「ハードボイルドとは何か」という定義を集めた例示集といえるかも知れない。

 ところで、ネットで「強くなければ〜」を調べると、今でも『長いお別れ』の台詞だと思っている方が少なからずいるようである。
 「強くなければ生きていけない、優しくなければ生きる資格がない。」は『プレイバック』の中の主人公フィリップ・マーロウの台詞である。(ちなみに『長いお別れ』で有名なのは「ギムレットには早すぎる」という台詞。これも間違われることが多いが、マーロウの友人テリーレノックスの台詞である。)
 また、「強くなければ〜」の頭に「男は」という語をつけて引用する人がいるが、これは高倉健の映画『野生の証明』のアオリであって、けっして清水訳にはついていないことも留意せられたい。