酒徒行状記

民俗学と酒など

第2回小田原酒場めぐり<大学酒蔵>

第2回小田原酒場めぐり。
台風やらなんやらで小田原行きも少し日が開いてしまった。

今回は、小田原での用事に間に合いそうなく、東京からロマンスカーで行くことに。
予想外の出費だったので、夜はあまり高くない店にしようと思って、かねてより目を付けていた「大学酒蔵」へ向かう。


ここは小田原駅から15分ほど行った、宮小路という古い飲み屋街にある店である。
古い街のせいか、いずれも年季の入った個人店が多く、大変趣きのある飲み屋街である。
この「大学酒蔵」そんな宮小路の中でも、松原神社という有名な神社の参道の真ん前にあるので、店の場所は比較的わかりやすい。


松原神社は、小田原の城下町の総鎮守ともいえる神社である。
元は漁師の信仰を集めた社であり、荒っぽい漁師の気風を反映してか、ここの氏子の神輿は担いで走る<地元では「飛ぶ」といわれる>のが特徴とされる。
小田原の祭礼調査でこの神社には何度も訪れたが、そのたびにこの「大学酒蔵」は気になっていた。

なんせ大学と酒蔵というおおよそ結びつかない名前ではないか。
学究を志すものとしては、ぜひ行かねばならないと思いつつ、調査が忙しく、これまで行く機会を逸していた。


暖簾をくぐり中に入ると、10人ぐらいで一杯になるコの字型のカウンターがあり、主人が真ん中で燗を付けている。
店は狭いが、奥には団体の宴会用の小さな座敷もある。


剣菱の冷をもらい、メニューを眺めると中心は海産物。
地魚も多く、さすが漁師の信仰を集めた社の前にある店だとひとしきり感心する。
聞いたことのない魚の刺身があったのできくと、マグロに似た魚だという。それを頼んで、揚げシューマイなんぞももらう。大変魚が新鮮でおいしい。


客は地元の人ばかり。地元の小学校の合併の話を盗み聞ぎしながら杯を重ねる。
また70もとうに過ぎたであろう婆さんが、やはりこれも少しとうのいった娘と飲んでいるのを見てほほえましくなる。聞けば店の主人の母の同級生とのこと。
大学酒蔵という名称の由来を聞くと「いろんな説があるけれども、この店ができた当時、味の良い酒と魚を出す店はあまりなかった。そこで、先代が、酒と魚の味の教育をしようという意気込みで付けた」とのことであった。


マグロの中落ちをもらって、燗酒3本で終わりにして帰る。


なんにせよこれから東京まで帰らねばならないのだ。
何年ごろにできたか聞き損じたし、また再びここの薫陶をうけに来なければなるまい。