酒徒行状記

民俗学と酒など

山梨の県民性

友人(東京出身。東京多摩地域在住)が、東洋経済の下記の記事を見て

 

「恐怖の実話!悪夢と化した「夢の田舎暮らし」」(東洋経済2018/07/07 8:00 清泉亮)

https://toyokeizai.net/articles/-/228325

 

「「山梨県人の歩いた道にはペンペン草も生えない」という言い回しも聞くし、この記事にみえるように山梨県の県民性は評判がわるいものが多いが、実際のところどうなのだろうか?。

 また無尽とかいう聞いたことのない風習もあると聞くし、東京に隣接しているのに、コロナ患者少ないし、山梨は関東圏から隔絶された異文化感があるように思うのだが、どうなのだろうか?」

というメールを送ってくれた。

 

一応、山梨で民俗学修論を書いたものとして、山梨の県民性を考える良い機会だと思って、返事を作ったので、メモとして記録しておく。

 

--以下回答---

 さて本件。山梨だけでなく日本各地である事例です。

 ただ、現代では、移住者を普通に受け入れる自治会の方が多いと思うので、
この移住者は、よほど運が悪かったか、初めの段階で、知らず知らず、集落のルールを破ってしまって嫌われたのではないかと思います。

 後段の
「縁側に干してある洗濯物の内容から量まで、集落の皆が皆、そんなのを全部見てて~」
 という発言から見るに、移住者にも非もあったのかもと、私の方はちと思ってしまいました。

 田舎では洗濯ものとか車の出入は一番みられるところで、なんなら、不在の時に急に雨が降ったら、代わりに取り込んで、縁側や玄関のぬれないところに置いてもくれる。下着なんかもお構いなしです。

 これを親切とみるかおせっかいとみるかは、その人次第ですね…


> 山梨というのは、性格に問題のある県民性と言われる。

 「甲州べえ」「甲州商人」が山梨県民に対して、よく言われる悪口です。
 こういう悪口はたいてい、隣接する地域で語られるもので、「甲州べえ」は、静岡(駿河)や長野、神奈川、奥多摩なんかでよく語られるものです。(私も静岡の芝川という県境の町で聞きました)

 こうした悪口が、どこまで実態を反映してるかは正直分からないけども、たいていの場合、県民性の一部分を拡大して語られるケースが多いです。

 「甲州べえ」」の場合、
  ・質素倹約の風が強い。独立心が強い
 という部分の裏を返せば
  ・金にけちけちしている。一匹狼である
になります。

 また隣接する静岡では「伊豆餓死、駿河乞食、遠州泥棒」なんて言い方があります。
 これは食べ物がない時に各地域の人がどうするかを揶揄したもので、
「静岡の人は、怠け者で稼ぐことをしない(めんどくさいから餓死するか、乞食をするか、盗みに入るかになる)」というものです。

 これも、静岡県民を「おっとりしている」ととらえるか「怠け者」ととらえるかのちがいです。

 こうした県民性は全国にあるけども、それがあってるかあってないかを考えるより、どうしてそういうイメージができていったかを見る方が、実態を把握するのによいと思います。

 山梨の県民性イメージが、どう成立していったかは「甲州人の県民性と政治風土」というタイトルで山梨学院の法学の先生が市民講座で書いているようです。
 これなんか見ると、甲州商人・甲州べえのイメージは意外と最近(近代)に入ってからなんだなあと思います。
 http://id.nii.ac.jp/1188/00003533/


 無尽>
 これは昔は、グループ内で金を融通するもので全国区で見られたものです。
 あまり知られていないけど、無尽から発展して銀行になったのもあります。
  日本住宅無尽会社
  https://www.nihon-jm.co.jp/
  
 山梨では、金銭の融通の役割はなくなり、グループで積み立てをして飲み会や旅行に行くのを「無尽」と呼んで現在も残っています。
 昔、大学のゼミで論文の下準備で「無尽と頼母子(たのもし。無尽の別名)」という発表をしたので添付します。

> 今でも、東京の隣なのにコロナ感染者が少なすぎる

山梨は大月市周辺の「郡内(ぐんない)」と甲府盆地周辺(富士川流域も含む)の「国中(くになか)」に分かれます。

山梨の通勤圏
https://www.cao.go.jp/bunken-suishin/closeup/closeup04-2/closeup02-2.html

これを見ると、東京に隣接するといっても、東京を通勤圏とするのは郡内の一部であり、中心地域である国中は、甲府盆地で生活圏や通勤圏は完結しているようです。ここらへんが東京に隣接する埼玉や神奈川と異なる点なのでしょう。

 実際、山梨県内のコロナの市町村別の発生者数を見ると、郡内(上野原や大月)の方が発生していて、甲府は人口に比して少ないです。
https://www.pref.yamanashi.jp/koucho/coronavirus/documents/210409_current_infection_situation.pdf

 実際、郡内の地域は民俗も多摩と連続している感があるけど、国中地方は全く別だと感じることが多いです。

--回答終わり

 

 回答を作っていて、山梨県内でも、郡内の方がコロナ感染者数が目に見えて大きいのは、一つ発見であった。また、「甲州人の県民性と政治風土」については、連続講座らしいので、機会があれば講義内容を知りたいものである。

 文中、静岡の県民性に触れた部分があるが、これは最近ハマって読んだ『ローカル女子の遠吠え』(瀬戸口みずき)で知った。

 

(なお、本記事はリサーチマップに書いた同内容の日記を一般向けに転載したものである。無尽と頼母子のメモについては

無尽と頼母子(Research Map「資料公開」)

https://researchmap.jp/multidatabases/multidatabase_contents/detail/229928/3464cdab84f76a969d05a1bc34684276?frame_id=463353

を参照の事)