酒徒行状記

民俗学と酒など

 休みなので、友人と連れ立って板橋へ遊びにいく。
 板橋に栄児(ろんある)という名の四川料理屋があり、そこに昼を食う魂胆である。
 栄児の唐辛子と山椒の効いた麻婆豆腐はまさしく「麻辣(マーラー)」と呼ぶべき味で、暑い時分にはふさわしい味である。
 
 舌の上に山椒をイメージしながら埼京線に乗って板橋へ行くが、しかし、栄児はしばらくランチを取りやめていた。
 落胆して店屋の多い十条まで歩く事にする。
 入院していた病院の脇を抜け、細い路地を行くと韓国料理屋が見えた。
 入院中、外出するときにも時々前を通っては気になっていた店なので、友人と相談し、店に入る。店の名前は「友−チング−」というどこかで聞いたことのある名前であった。
 
 店内は狭いながらも、近くの高校生なんかも入っている。値段も安く、高校生が週一くらい部活の終わりに寄り道できるくらいの金額だ。
 ビビンバと、ちょっと奮発してマッカリを昼から頼む。高校生とは財力が違うのだなどと少し張り合って見た。
 つまみに出された韓国海苔を食べながら、マッカリを呑む。
 昔何かの本の挿絵で、韓国のマッカリを担ぎ売る老人が、夏の暑い日、柳の木の下で店を開くシーンがあったのを思い出した。
 涼を求めてマッカリを呑む客の姿と、老人の長い細いひげと山高な帽子ははっきりと覚えているのだが、どんなタイトルでどんな話だったかまったく覚えていない。
 ただ、夏の暑い日にマッカリで一杯やったら、こたえられない旨さだろうなと思っていたが、まさしくそのとおり、旨い昼酒だった。

 店を出て十条を散歩する。古い商店街があるのも気に入った。
 ここら辺に住むのも悪くないなと思った。なんせ、仕事の帰りは斎藤酒場で一杯やれるのだから。