酒徒行状記

民俗学と酒など

絶望の物語

 船戸与一金門島流離譚』読了。『三都物語』に引き続き移る。
 「金門島流離譚」は『金門島流離譚』と『瑞芳霧雨情話』の二話の短編よりなる。
 「金門島流離譚」は台湾と中国の帰属問題で揺れる金門島の情勢を利用して、コピー商品の販売を行っている日本の商社マンの話。
 彼は日本で義父の愛人と恋におちるが、それが発覚したため義父を殺害し、また愛人も駆け落ちを拒絶された事により殺害してしまう。
 犯行自体は発覚せずにすんできたが、離人症に悩まされ続けている。
 そして平穏だったビジネスにも、取引相手の犯罪組織の抗争や中国国家安全部の謀略により陰りを見せ、義父の死体が山中で発見されたことにより、次第に男は追い詰められていく。
 「瑞芳霧雨情話」は戦前、台湾有数の金鉱だった瑞芳にて卒業論文の調査を行う日本人大学生が地上げに巻き込まれる。
 大学生は台湾人の恋人を地上げ屋の手下に強姦される。
 大学生は地上げをされた家の娘(この娘も強姦され、父は日本軍の残した日本刀で地上げを行った不動産屋を殺した後、自決したのであった)の婚約者とともに強姦の実行犯の復讐を行う。

 三都物語は横浜(日本)・台中(台湾)・光州(韓国)を舞台に
、野球選手やスカウトが野球賭博やあるいは女・病気などで、身を滅ぼしていくさまを描いた連作短編集。
 三都はまだ読みさしだが、三都も金門島も作品も、人間が追い詰められていくさまが良く描かれていて、興味深かった。登場人物の大半が悲劇で終わるが船戸節の真骨頂なのだが、どれも読後に一抹の爽快感を残してくれるのは、主人公らが、悪党は悪党なりに、巻き込まれる善人は善人なりに(単純に分けられない人物設定ではあるが)最後まで状況に、理論あるいは行動で抵抗した後に初めて、諦観にも似た絶望を迎えるからだろう。
 どれも絶望に打ちのめされるというより、絶望的であろうとなかろうと行動を起こさねばと思わせてくれるのだ。