酒徒行状記

民俗学と酒など

第二次長浜調査

大学院の調査で滋賀県長浜市の名越に行ってきた。オコナイと呼ばれる滋賀県で行われる正月の神事を見に行くためである。
例によって往復夜行バスというハードスケジュールであった。

 以下所感を
・往路バス
 12日の晩、終業後池袋より出発。出発まで少し時間があったので、東口のOLDNEWという店でギムレットを一杯だけ飲む。味は普通だが、値段が高い目である。出発の時刻もあったので一杯で切り上げる。バスの中で飲む用にギネスを一缶とサンイッチを買う。さっきのギムレットより費用対効果は断然いい。

・13日
 朝5時米原着。いつものとおり真っ暗。5時半すぎの始発で長浜に向かう。
 十日恵比寿の看板の残る豊公神社を御参りし、駅前の一膳飯屋が空くのを待って、朝飯。労働者が朝酒を飲みに来るとこらしい。内装といい店の老婆といい少し不潔な気もしたが、慣れればまったく無問題である。鯖の味噌煮と丼の味噌汁と米と漬物。600円也。ちと高い気もするが、まあ旅先故贅沢はいえない。味は腹が減っていたこともあり、旨く感じる。食後コーヒーを一杯サービスして貰えた。このコーヒーが疲れた体にはありがたかった。コーヒを飲みながら、調査資料を読み現地へ向かう。前回夏に来たときは、琵琶湖湖畔の国民宿舎で温泉の朝風呂に漬かれたが、今回は朝飯を食っていたら、立ち寄り湯の時間が既に終わっていて入れなかった。
 現地に着くと、調査地でたまたま葬儀があった。調査せねばということで、喪主ならびに葬儀委員長に許可を得て取材する。葬儀場でなく家で行う葬式は始めてであったので、勉強になった。
 午前中一杯葬式。霊柩車に乗って火葬場へ向かうところまでを取材。霊柩車が東京と違い普通のライトバンであった。
 午後、一眠りした後、夏、御世話になったT.Sという話者のところへ夏の調査の不明点について聞き取りに行く。
 夕方5時より、初七日。T.Sさんの息子さんと一緒に参列させてもらい、写真を撮る。葬儀と違って、参列者が経を合唱する(葬儀のときは坊さんのみ)ので葬儀よりも宗教行事の趣がある。
 法要終了後7時ごろ宿へ帰る。調査団の面々と合流。

14日
 オコナイ一日目。午前中餅つきならびにモチバナ作り。
 午後、「冠句」と情歌の歌会。
 大分簡略化されているが、それでも面白い。関東に比べるとずっと厳格で村の祭りであると言う意識が強いように感じる。
 モチバナは桜の気を山から切ってきて、会場(昔は当番の家だったが今は地区の会館で行う)の座敷の大黒柱に、縛りつけそれにモチをつけて飾るもの。このモチバナ作りと、そのための餅つきならびに鏡餅作りがオコナイの目的である。
 辞書的な説明では年神の霊力の象徴として鏡餅を村中で作り、また五穀豊穣や養蚕の成功の予祝としてモチバナをつくり、それを村で分けることで、神の霊力と一年の幸福が村人に分け与えられるのだ。
 なお、他の地区は餅つきと鏡餅作りに気合を入れるところが多いが、ここはモチバナ作りがメインのようだ。 
 夜、昨日、気合を入れすぎて調査をしすぎたせいか、少し風邪気味になる。さすがに最近夜行バスはしんどい。

15日
 体調はあまりよくない。
 朝、村の各戸から戸主が出て宴会をし、その後神事。そして、オコナイのもう一つの目玉である当番の交代の儀式を見る
。ここは新しい当番を籤で決めるのだ。
 籤で一番札で決まった家に、取材に行く。この家で当番の引継ぎの杯事が行われるためである。
 見ていて思ったのは、神事のときは塗りの朱杯で冷酒を呑み、直会の宴会では燗の日本酒を飲む点。
 また、宴席の作法として、目上の人が目下の者に自分の杯を渡し(正式には渡す前に少し目上の者が軽く手酌して杯に口をつけておく)、それで目下の者に酒を飲ませて、また自分に杯を返させた後、目下から酒を注がせるというのがあった。昔で言う杯を取らせるというやつである。古風なよい風習を見ることが出来た。
 その後鏡餅とモチバナ配りを見て、午後、長浜へ戻る。
 友人らと海洋堂ミュージアムを見た後、豊公荘で温泉に入り、その後時間飲み屋を探す。

 ふらっとはいった店はvonというバーであった。
 この店、つまみに餃子入りの酸辣湯を出す店で、中華とバーとJAZZという私の好きなものを3つ集めたような店であった。
 酒の味はそこそこだが、マスターとも話が合い、また餃子入りの酸辣湯がえらく旨い。黒酢の酸味が風邪気味の胃を刺激し、辛味が体を活性化させる。
 また中国産の朝鮮人参を漬けた焼酎と韓国の焼酎を奢ってもらえた。ありがたいことである。丁度よい風邪薬の代わりになった。
 私は旅先などで、一人で旨い飯屋や飲み屋を探す嗅覚には自信があるのだが、久々に今回それが発揮できた気がする。今後も長浜調査のたびに、ここを訪ねることとしよう。