はじめに
先日、日本中国白酒協会のイベント「虎萬元で白酒を飲み明かそう!」に参加したことは、当ブログでも報告した
そして、先日、同じく日本中国白酒協会のイベント第二弾白酒イベント「中国茶房8で羊を齧り白酒で乾杯しよう!!」
baijiu.jpにも参加してきたので、その報告をする。
今回は前回よりもさらに、乾杯乾杯と杯が飛び交う大盛り上がりの宴会であった。
1.当方に酒を飲む用意あり
前回のイベントは一人で参加をしたが、今回は職場の白酒仲間の先輩を一人誘っての参加をした。
先輩は白酒と羊が大好物。前回のイベントの話をしたら、ぜひ行きたいとの由。
しかも今回は料理も羊が中心。まさしく先輩のためにあるような企画である。
というわけで先輩とつれだって、てくてく歩いて職場から六本木中国茶房8へ向かう。
なお、最近はコロナ禍が猛威を振るっている。我々も六本木で抗原検査キットを買って、万が一濃厚接触者になった時に備える。これも時代ではある。*1
さらに蛇足ではあるが、私はこの日の午前まで人間ドックであった。例年人間ドックの前の2,3週間はダイエットと禁酒をして、ボクサーが試合に臨むが如き緊張感をもって人間ドックを行っている。
今回のイベントはまさに試合空け。当方に酒を飲む用意ありというところである。
2.舞台の幕開け
今回の宴会会場、「中国茶房8(ちゅうごくさぼう エイト)」は新宿など繁華街で複数の店舗を構える中華料理チェーンである。
大箱の店が多くグループで使える。比較的安価で、現地味だけど日本人も食べやすいメニューになっている。24時間営業で朝から中華が食べられる、という驚異的なスタイルで営業をやっていることで、私も宴会で何度か利用したことがある。
前は、中国茶房8赤坂店で、餃子の種類が50種類くらいあったのを、友人と「菜譜の上から順に持ってきて」と頼んだことがあった。残念ながら50種全部は無理だったが、3人で28種くらいは食べたはず…
今回の六本木店は中国茶房8の中でも、ギロッポンに位置するだけあり、他の店とはことなったおしゃれな店内で、中には、鐘突きを模したオブジェなんかが飾ってある。
まあそのなんだ、えっちですね…
食いしんぼな我々、一番旨い食い物も酒も、この鐘のテーブルに置かれるだろうという予想のもと、鐘の下の席に陣取る。
さて、今回の菜譜は
- 広東白切鶏(広東蒸鶏)
- 醤牛肉(牛肉の醤油煮込み)
- 葱油牛肚(牛ハチノスの葱醤油ソース和え)
- 紅油干絲(干し豆腐のラー油和え)
- .皮蛋(ピータン)
- 吊炉花生(窯焼き落花生)
- 烤羊腿(羊の腿焼き。1テーブル4kg!)
- 北京烤鴨(北京ダック)
- 干焼蝦仁(エビチリ)
- 鉄板孜然羊肉(羊肉のクミン鉄板炒め)
- 石鍋羊肉麻婆豆腐(石鍋入り羊肉の麻婆豆腐)
- 百葉青梗菜(中国湯葉と青梗菜さっぱり炒め)
- 新疆牛肉皮帯面(新疆牛肉ベルト麺)
- 蒙古羊肉炒飯(モンゴル羊肉炒飯)
- 湯 関羽羊肉羹(羊肉の玉子あんかけスープ)
- 番外デザート 酔西瓜(酔っ払い西瓜)
と羊推しなメニューであった。烤羊腿(羊の腿焼き。1テーブル4kg)とはなにか期待で胸が躍る。
出された白酒は
の4種類。
それにお馴染みの白ボールは麻辣白ボール(白酒のハイボール)
に加えて、今回は麻辣白ボール原液(江小白に乾燥した赤唐辛子、花椒、青麻椒粉(山椒粉)を24時間浸したもの)
も提供された。
無論このほかその他ビール・ワインなど飲み放題メニュー。
と錚々たる品揃えである。このイベントではだいぶおなじみになったが、沱牌六粮がまた飲めるのがうれしい。
3.「话不多说 都在酒里」(話は多くを説かず、都て酒中にあり)
さて、乾杯の前は恒例となりつつある日和商事のKさんにより白酒解説講座である。
やはり本イベントはただの酒飲みイベントではなく、白酒を世に広めようとする人々の集まりである。この講座があるから引き締まるというものである。
今回さらに加えられた説明としては、今回、振舞われた麻辣白ボール原液の紹介があった。
これは江小白に赤唐辛子、花椒、青麻椒粉(山椒粉)といったスパイスを漬け込んだものである。今回、この原液は用意した分量がそんなに多くないということで、一瞬参加者に奪い合いの殺気が走る。
でまず全員で起立して乾杯。音頭は落語家の方。
落語家のお名前、三遊亭まではきこえたのが下の名前は聞こえずで申し訳ないことをした。
乾杯の酒は綿柔尖庄。前回は35度だったが今回は50度。ちょうどよく冷えていて旨い。度数が高いぶんだけ味がシャープに感じられる。今回の白酒グラスは15mlくらいの小さいサイズなので、皆、「くいッ」とあおってしまう。
個人的には、白ボールで売るより、まずはこの冷やして(できれば冷凍庫で)白酒を飲ませるというのを流行らせた方がいいと思うのだけどどうだろうか。
また、聞けば白酒は本来52度以上なければ、本来は白酒と認められない制度があるようである。実際にはビールと発泡酒の違いみたいなもので、飲む人にはあまり意識されていないが古くからの白酒マニアははやはり52度以上を貴ぶとのこと。
そして私は今まで本式の52度以上の白酒をほとんど飲んでないことに気づいて少し愕然とする。
気を取り直して、前菜の数種。白切鶏、醤牛肉がおいしい。紅油干絲。実はダイエット中に、ダイエットメニューとして干絲をよく食べていたのだけど、やはり店で食べるのはひとしお美味しい。
吊炉花生は窯焼き落花生。
菜譜では弔炉となっていたがこれは誤字であろう。一文字違えると、葬儀の香炉みたいでちょっとおっかない。
そんなこんなで料理をつまみながら同じテーブルの人々に話を聞くと、今回初めて連れてきた私の先輩以外は、皆前回も出席した人であった。
隣の席のおじさんに白酒を注ぐと、注いでる間トントントンと指を机に打ち鳴らすしぐさをしてくれる。聞けば、注いでくれたお礼のしぐさとのこと。私もカッコよく叩けるようになりたいものである。
この方はやはり中国の滞在経験があり、そこで覚えたとのこと。
この方から返杯をしてもらい、さらに「中国では一人で酒を飲んじゃだめだ。目と目があったら乾杯だ」とさらにお酒をいただき、また乾杯する。
乾杯も本来はこの会では随意(自分お好きな量飲めばよい)でいいのだけど、おじさんは必ず、飲み干して、底を相手に見せてくれる。
「一応この会は随意でいいので」と言うと「飲み干すのも随意だ」とのこと。愉快な方である。
年上の人にそのようなことを言われたら、私のような白酒若輩者も答えねばならぬ。くいッと飲み干して応える。「话不多说 都在酒里」(話は多くを説かず,都て酒中にあり)とはこのことである
4.烤羊腿,四公斤(羊の腿焼き4kg)
さて、メインの羊の腿焼きが運ばれてきた。
なかなか普段骨付き肉4kgをみることはないので皆で写真の撮影会となる。
塩とスパイスをつけて食うのだが、これが旨くて、スナック菓子のようにみるみる食べられていく。
そういえば『鉄鍋のジャン』で羊肉の岩塩焼きという料理が出てきた。
これはポテトチップスが止まらなくなるのと同じ原理の料理で、岩塩が舌に刺激を与えて、脳内にエンドルフィンを抽出させて、「やめられない止められない」状態を作り上げるという解説がなされていたが、この料理も近いものかもしれない。*2
しっかりと味がついていて重めな料理なのにするする入る。口が脂っこくなったらは度数の高い汾酒で洗い清める。そんな繰り返しで4kgの肉も見る見るうちに皿から消えていった。
もう一つの目玉は、やはり北京烤鴨である。
これは配膳方法が面白く、醤を盛った大皿と肉を包む薄い餅の容器を重ねて配膳してきた。日本では食事の乗った器を重ねてテーブルに配膳することはまずないのだけど、中国では一般的だとのこと。
こんなふうに(料理に皿同士が触れない限り)皿を重ねておいてもいいという発想は食文化を考える上でもおもしろい
主催者の一人中川正道氏がテーブルに来てくださったので四川の話や中華料理の話を伺う。
中川氏の話では、この「中国料理8」はもともとは中国人のテレビスタッフが深夜作業・徹夜作業などの仕事明けに飯を食ったり休憩をしに来る店として成立したとのこと。なので24時間営業だし、赤坂、新宿、六本木…とテレビ局に近いところにあるとのこと。
普段は割と日本人向けな感じの料理を作っているが、頼めば現地味の料理も作ってくれるとのこと。特に今回は60人の宴会とのことで、腕を振るって羊料理を作ってくれたとの由。この羊料理のうまさは、私が察するに今日の料理人は北の出身の人ではないかと思う。
そういえば、白ボールをまだ飲んでいなかったことに気づき、白ボール配給の列に並ぶ。なるほど原液は香辛料の味が濃い。
今回、白ボールは、ノーマルな味のない炭酸で割っていたが、原液のように香辛料の味が強い場合、ノーマルな味なしの炭酸でなく、少し甘味のある炭酸ジュース(スプライトなど)で割った方がうまみが引き立つかもしれない。またレモンかライムをそれに加えるのもありだと思う。
そんなことを同じテーブルの方と話しながら白酒を乾杯しまくっていた。乾杯乾杯又乾杯。
5.牧童遙指杏花村(牧童、遙かに指さす杏花の村)
宴もたけなわ、茅台王子酒、沱牌六粮、汾酒、江小白と飲みすすめていく。
飲み比べるなか、今回印象的だったのは汾酒であった。
-杏花村。中国の酒を愛する人には
清明時節雨紛紛
路上行人欲斷魂
借問酒家何處有
牧童遙指杏花村
(四月、清明の頃は春雨がじっとりと降り込める。この憂鬱は雨のせいかそれとも郷里を離れて旅行く身の侘しさか。
「そこな牧童さん。ここいらに飲み屋はないかい?」
彼は遠くあんずの花の咲く村を指してくれた。よさげな店のあるきれいな村だ。よし!飲みに行こう―拙訳)
という晩唐の詩人杜牧の詩で聞いたことがあるのではないだろうか。
残念ながら汾酒を造っている山西省汾陽県の杏花村がこの詩に出てくる、「杏花村」」なのかははっきりとしないが*3、この杏花村は、南北朝時代(420年~589年)から続く酒の名醸地である。
南北朝時代は黄酒(紹興酒と同じ醸造酒)を造っていたが、いつのころか蒸留酒に変わり、現在でも伝わるとされる。*4
度数が他の白酒より高めで、初めアルコールの香りが少し来るが、すぐに花に似た香が強くなる、そしてすっと喉を焼きながら胃に伝わっていく。度数が強いが、香も味も強く、そのくせ後に残る香は消える感じである
名は伏せるが、飲み比べたうちの一つは、それまでうまいうまいと有難がっていたが、汾酒にくらべると雑味も臭みもつよいというのに気づいてしまった。飲み比べは残酷なものである。
5.変臉
今回は余興が多くついたのも見逃せない。
特に変臉(へんれん。変面とも)を初めて見れたのは最高だった。
変面なう。ひゃっはーすげえ。 pic.twitter.com/zFWuvpNcqv
— 酒徒吉風 (@syutoyoshikaze) 2022年9月1日
いい席に陣取ったおかげで、ほとんど間近で見ることができたのだが、全くタネがわからなかった。
紐か何かでつるッと面を引っぱってるとは思うのだけど、まったくわからない。
やはりこれは舞台なんかより、こうかぶりつきで見たい芸である。変面師は王文強氏*5安徽省の方だそうである。
その他、ドラマ『日本沈没』で中国大使役のをされた方*6が役のセリフをやるなどもしてくれた。
その後は羊肉の湯や、ベルト麺などをいただく。
正直だいぶ酔っていてあまり料理の味は覚えていない。ベルト麺はぼやぼやしていて先輩に食われた気がする。
ただ羊の湯。これが「飲んだ体にやさし~」と思ったのは覚えている。滋味であった。こういう旨いスープが出る宴会はしみじみありがたい。
宴会も終盤。最後に目を引いたのは、菜譜には載っていなかった「酔西瓜」である。
中川氏の話では 最近中国で流行っている食べ方とのことで、西瓜に江小白をぶっ刺した料理である。
『くーねるまるた』で「スイカのソルティードッグ」としてスイカを2つに割ってウォッカを注いで手でバリバリ毟りながら食べるというのが紹介されていたが、それの白酒版と考えればよいだろう。スイカの果汁と白酒の香りが相まって実に夏向きのいいデザートだった。これは来年もやりたい。
6.一味帯酒
さて。次の会を楽しみにしつつ別れの挨拶をしていると、先輩が同じ席の人と話し込んでいる。「先輩どうしたのかなあ」と思っていると「吉風ちゃん、二次会行くで-」とのこと。同じテーブルの方々4人と連れ立って二次会へ向かう。とても3時間くらい前まで初対面だった人々とは思えぬ気さくさである。
一衣帯水ならぬ一味帯酒といったところか。
二次会の案内は、先ほどの写真にも出ていた長野は佐久の中華料理「九尾の狐」のマスター荻原氏。氏の経営者仲間の店が歌舞伎町にあるということで、タクシーで歌舞伎町に向かう。ギロッポンから歌舞伎町だなんて、おれたちギョーカイ人。
二次会会場は「チーズフォンデュ専門店安藤ファーム」。
twitter.com チーズフォンデュもうまそうだが、さすがに腹いっぱいなので悩んでいると「チーズの盛り合わせ」もありますよとのこと。ありがたいことである。今度チーズフォンデュくいます。
ぐだぐだと4人で白ワインやハイボールを飲みながら、萩原氏の中華料理話を聞く。
萩原氏は元は都内の中華料理レストランで修行されていたとのこと。
スペシャリテは麻婆豆腐で、500店以上を食べ歩いて味の研究をされたとのことである。佐久に行ったらぜひ荻原氏の麻婆豆腐を食べてみたいものである。
なお、氏の推しの麻婆豆腐は一つは四川飯店、もう一つは菰田欣也氏の4000 Chinese restaurantの麻婆豆腐とのこと。四川飯店は時々食べるが、菰田氏のはまだ食べたことがない。これも気になるところ。
またもう一つのスペシャリテは回鍋肉とのこと。これもかなり工夫を凝らしたの回鍋肉とのことで期待が高まる。
<長野佐久 九尾の狐> www.slow-style.com
また、荻原氏の話では、中華料理は料理前の段取りが9割で、段取りさえ済めば、一気呵成にできるとのこと。
私も手際よくできるよう頑張ろうと思う。
7.醉後各分散
今回の宴会、第二弾白酒イベントは前回が30名だったのに対し、今回は60名規模の大宴会となった。最後の方は持ち込んだ白酒が払底し、他のテーブルに白酒が残ってないか求めさまようテーブルもあったと。特に鐘の下のテーブルの面々は白酒をよこせーと略奪にはしっていた。
参加者の飲みっぷりを見ていると、白酒、日本への普及、結構いけんるんじゃないかと期待も持ってしまう。とくに最後の「酔っぱらい西瓜」なんかはうまくやれば若者にも人気が出るメニューになるのではないかと思う。
次回にも期待をしたいところである。
そしてもう一つ、コックさんは意外と地元のスペシャリテや郷土の料理を作りたがっているというのも今回の宴会の印象であった
是非、皆さんも、普段日本人向けの中華をだしてる店でも
「我想吃特色菜。我想吃你的道地美食。(うぉーしゃんちー、たーすつぁい。うぉーしゃんちー、にーだ、だおでぃめいしー。*7あなたの店のスペシャリテが食べたい。あなたの郷土の料理が食べたい)」
と宴会の予約で頼んでみましょう。
きっと普段以上に気合に入った料理が出てくることと思います。
*2:なお、漫画ではエンドルフィンに加えてトマトスープを一緒に出すことで、トマトのカリウムにより、血中の塩分を尿に排出し塩分不足にもさせる(そして岩塩付の肉がさらにほしくなる)という設定もあった。なお私は鉄鍋のジャンでは刈井さんが一番好きである。
*3:このサイトによると山西省汾陽県杏子花村説、安徽省貴池杏花村説、湖北省麻城説などがあるようである(参考「借问酒家何处有,牧童遥指杏花村——山西汾阳/列国志」。ただ、一番有力なのは、実在の村を指しているのではなく、俗世から離れた理想の桃源郷を指してる説が一番有力だったりする(矢嶋美都子「杏花のイメージの変遷から見た杜牧の 「清明」 詩に関する一考察」
*4:杏花村と白酒の伝説
*5:王文強 変面役者 変面師 演劇 (@62jK5hKSyKLwkio) / Twitter
*6:郭斌氏。実は日和商事の営業さんとのこと。郭斌カクヒン (@kakuhin0820) / Twitter