「サジー」という果物がある。グミ科の果物で黄色・黄金色の小さい実がつく落葉低木である。
最近はこれを絞ったジュースが健康にいいということで、豊潤サジーという商品名でTwitter(X)でも広告が流れたりしているので、知っている人も多いかもしれない。
さて、このサジーの日本語版Wikipediaのページを見ていて気づいたのだけど、やたら記載が細かいのである。
しかもその記述
「植物界で最も栄養価が高い果実の一つであると言われ、ジュースをはじめ各種健康食品、またいわゆるスーパーフードとして、国内外で商業的に流通している」
「食品以外に医薬品や化粧品としての実用化も進んでおり、その環境保全機能の高さと合わせてサジーは非常に大きな経済的可能性を秘めた植物であると言われている」
というようにその薬効を期待させる書き方がやたらなされている。
証左はないけど、もしかすると、健康飲料を販売している会社や普及を進める団体などが書き込んでるのかもと思わせるような記述となっている。
筆者はそれを非難するものではないし、当該の記事は多少長すぎるきらいはあるが、出典(サジー協会という普及団体の協会誌が出典なのも多いけど)は一応きちんと示されているし、Webの集合知の使い方の一つとして良いかなと思っている。
さて、では、あまり普及団体の記載が入っていないと思われる、中国版Wikipedia、百度百科ではサジーはどんな植物として紹介されているのだろう。
ちょっと気になって検索をしたので、DeepL頼みの翻訳をして日本語版Wikipediaとの記載の違いを見てみようと思う。*1
まずは百度百科のサジー(沙棘)の概要から
サジー(Hippophae rhamnoides L.)は、ヒッポファエ属の落葉低木の果実である。
高さは1~2.5メートルで、トゲが多く、がっしりとしていて、末端または側方に伸びる。
新梢は茶色がかった緑色で、古い枝は灰黒色でざらざらしている。ツボミは大きく、黄金色または錆色である。
花は葉より先に開き、雌雄異株。 開花は4~5月、果実は9~10月に熟す。
サジーは中国華北、西北、西南などに分布し、標高800~3600メートルの温帯地域の日当たりの良い山頂、谷間、乾燥した河床や山の斜面、礫質または砂質土壌、あるいは黄土に生育することが多い。
その特性として、乾燥に強く、砂に強く、塩分を含んだ土地でも生き残ることができるため、土壌や水の保全に広く利用されている。中国北西部では、砂漠緑化のためにサジーが大量に植えられている。
サジーは中国では悠久の薬用の歴史を有している。伝説によると、チンギス・ハーンは軍隊を率いて遠征に出かけたが、当時、環境条件の下で、彼は病気や怪我をした馬をサジーの林に置き去りにするよう命じた。その後、再びその場所を通りかかったところ、置き去りにされた馬が死んでいないことを発見し、それ以来、チンギス・ハーンはサジーを「長生天」から与えられた霊丹妙薬として、「食欲を増進し、脾臓を強化し、脾臓の健康を増進する」と名付けた。 それ以来、チンギス・ハーンはシーバックソーンを「長寿の万能薬」とみなし、「開胃健脾長寿果実」、「聖実」と名づけた。
サジーの根、茎、葉、花、果実、種子は薬として利用でき、特に果実は栄養分と生物学的活性物質が豊富で、ビタミンが多く含まれ、"ビタミンCの王様 "の美称がつけられている。
現代の医学研究では、サジーには疲労回復、記憶力強化、老化防止、体力強化、免疫力向上、心臓血管や脳血管を柔らかくする効果がある。(百度百科)
最後に薬効を謳うのは日本語Wikipediaと同じ健康食品としての可能性だが、中国における分布域やジンギスカンの伝説を引いているのは日本語版にない情報である。
さて、百度百科の本文は
1 形態学的特徴
植物の外観
顕微鏡的特徴
化学的特徴
2 生息地
3 生育習性
4 栽培技術
増殖技術
圃場管理
収穫と貯蔵
5 害虫駆除
6 サブカテゴリー
7 主要価値
治療的価値
美容的価値
エコロジーと緑化
経済的価値
8 植物文化
9 学術セミナー
10 食品の栄養成分
(百度百科)
と項目だてられている。
これを日本語Wikipediaの記事の構成
形態・生態
分布
含有成分
果実
種子
果皮
葉
利用
環境保全
食用・飲用
化粧品
薬用
安全性
歴史
(日本語版wikipedia)
と較べると、実際に生産している国らしく、百度百科の方は 栽培技術が細かく章立てされて記載されているのが特徴的である。
また、分布や品種など両者に共通する項目もあるが、日本語版Wikipediaは
ユーラシア原産のサジーは、おおむね北緯27度から69度、西経7度から東経122度の間の温帯、すなわち中国、モンゴル、ロシア、中央アジア、ヨーロッパ北部(イギリス、フランス、デンマーク、オランダ、ドイツ、ポーランド、フィンランド、スウェーデン、ノルウェー等)に広く自生する。丘陵や斜面、谷間、河川敷、海岸沿い、島など様々な場所で見られ、他の低木や樹木の種との混合木立でも見られる。前述の特性から、標高1200-2000メートルの高山や砂漠、寒暖の差が激しい地域にも自生できる。
日本国内には自生しておらず、主に北海道で試験的に栽培されている程度である。その他、カナダ、アメリカ、イタリア、ボリビア、チリ、韓国など多くの国々で栽培が行われている[28]。2013年時点で、サジーの総植生面積は世界で約300万ヘクタール、このうち中国が約250万ヘクタール(うち野生種100万ヘクタール、栽培種150万ヘクタール)、モンゴルが約2万ヘクタール、インドが約1.2万ha、パキスタンが約3,000ヘクタールとなっている[29]。中国では毎年約1万ヘクタール分が果実の生産と環境改善のために植えられているほか[29]、インドでは気候変動対策を主な目的として、サジーをヒマラヤ地区に2020年までに100万ヘクタール植林する国家プロジェクトが2010年に発表されている。 (日本語版wikipedia)
と、世界における分布を記すのに対し、百度百科は
サジーは、華北、西北、西南(新疆、河北、内モンゴル、山西、陝西、甘粛、青海、四川西部)に分布し、日当たりのよい山頂、谷、乾燥した河床や斜面、礫質または砂質土壌、黄土、標高800~3600mの温帯に生育することが多い。(百度百科)
と、中国国内の分布のみを記している。
ここらへん、中国のネットユーザが世界よりも国内向きなっているのを示しているとみるのはうがちすぎであろうか?
その他、百度でおもしろいのは「8 植物文化」の項目である。
日本語版wikipediaでは伝説にはほとんど触れられていないが、先の「チンギスハーンとサジー」の伝説とともに
サジーは海外では古くから知られている。 古代ギリシャ時代、都市国家間の戦争は絶えなかった。 あるとき、スパルタ軍が戦いに勝利したが、その戦いで60頭以上の軍馬が重傷を負った。 スパルタ兵は自分たちの馬を殺すのは忍びなく、愛馬が死んでいくのを見たくなかったので、馬を森に置いた。
しばらくして、瀕死の馬たちが死なずに、みな太ってたくましくなり、明るい色の毛並みが光っているように見えたので、彼らは驚いた。 スパルタ人は非常に不思議に感じ、やがて、馬の一団がサジーの森に入れられたこと、この馬たちはサジーの葉を食べるために飢え、サジーの実を食べるために渇き、サジーを生活の糧としていることを突き止めた。 それ以来、聡明な古代ギリシャ人はサジーの栄養価と癒しの価値を知り、サジーに「馬を輝かせる木」という意味のロマンチックなラテン語名 "Hippohgae rhamnoides L "を与え、これがサジーのラテン語学名の由来となった。(百度百科)
とラテン語の由来まで書いている。
また、日本語版wikipediaの方は、
1991年のソビエト連邦崩壊で旧ソ連国内の研究機関が持つ情報およびサジーの苗が海外に流出したことが、20世紀末以降世界的にサジーの商業栽培が広まる一つのきっかけとなった(日本語版wikipedia)
として、サジーの普及にソ連の影響があることが触れられているが、百度百科では、旧ソ連との関係性は触れられていない。
以上、サジーの記載について両者を比較すると
日本語版wikipediaのサジーの項は
・サジーの薬効を中心とした書き方となっている
・利用方法やサジーによる環境保全、あるいは利用方法を研究してきた団体や協会の歴史の記述が中心
一方、百度百科の方は
・百科事典的に、伝説なども網羅した書き方
・中国国内での栽培法の記述分量が多い
・一方で国外におけるサジーについては記述がほとんどない
という違いを見ることができる。
Wikipediaの各言語による記載の濃淡は、少し検索に慣れた人や研究者にはすでに周知のことだが、このように国ごとの「Wikipedia的Web百科事典」の記載の違いについてはあまり、触れている人は少ないかと思うので、サジーを例として、ここに記載する
私は知らないが、ロシアのYandexなどにもしWikipedia的百科事典があれば、きっとこのサジーの情報も異なるものと思われる。
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ところで、なんで急にサジーを検索しようと思ったかというと、とあるところからTwitterでうちのサジーを宣伝してくれませんかとDMが来たからだった。
「おお、これが<案件>というやつか!」というやつでちょっと気になったけども、「あまり宣伝目的でTwitterを使いたくないな」というのと、いろいろ手続きがめんどくさそうで結局なにもせずにしてしまった。(この記事もアフィリエイトはまったくありません)
一回も飲んでないが、一度くらいは飲んでみようかしらん。