酒徒行状記

民俗学と酒など

第一回酒徒吉風(酔っ払いの舌)杯開催!(<米とサーカス>『鉄鍋のジャン』コラボ料理を喰う)

はじめに

 私は常日頃から中華料理を愛すことはなはだしいが、これは思春期に読んだ二つの本の影響を受けている。

 一つは、南條竹則先生の『酒仙』および中華料理関係エッセイ。

 もう一つは今からおおよそ30年前(1995年~2000年まで)週刊少年チャンピオンに連載された西条真二/おやまけいこ両先生の『鉄鍋のジャン』である。

 この漫画、中華料理をテーマにした料理バトル漫画であるが、西条真二先生の外連味のある絵と、監修者のおやまけいこ先生の料理知識が、ふんだんに生かされ、

 飲めるラー油・ジビエ・昆虫料理・低温調理(作中では定温調理)・刀削麺ブームなど、その後30年間の中華料理でも最先端な料理やトレンドが預言書のように取り上げられているのである。

 

 で、2023年、ジビエ・昆虫料理で有名な高田馬場の<米とサーカス>と、コラボしてこの鉄鍋のジャンの再現料理イベントをおこなったのである。

 鉄鍋のジャンの大ファンとしては欣喜雀躍…「どこの世界に30年前の料理漫画とコラボする店があるんだよ。サイコーにイかれてんなー」と、さっそくコラボ料理を食べに友人と行ってきた。

 

 以下、漫画に出て来る料理コンテスト大谷日堂杯にあやかって、第一回酒徒吉風(酔っ払いの舌)杯として、料理コンテスト風に食べた記録を書く。

(なお実食感想と採点ははいい加減です。酔っ払いの舌なので、ゆめゆめ皆さまは信用せぬよう願います)

 

collabo-cafe.com

コラボメニュー

 

1.冷菜-21世紀の生き残りをかけたダチョウ肉のカルパッチョ仕立て

 これは「21世紀のサバイバルのための食材としてのダチョウ肉」という題でコンテストを行った回の料理。

 1990年には日本で初めて茨城の石岡にダチョウ農場の計画が持ち上がり*1、1997年ごろには第4の家畜肉としてダチョウ肉が注目されるようになる。*2  

 こうした背景で作中、21世紀のサバイバル肉としてダチョウ肉が題材に選ばれた。*3

 実際にダチョウ農場(たぶん当時、ダチョウ牧場のあった茨城県石岡に行ったのではないかと思う)に取材にいった成果だと思うが、

 ・しめる際にストレスを与えると、血が回ってしまいブヨブヨの肉になってしまう

 ・赤身肉で、ヘルシーだが脂分に欠ける。

 という問題も作中で指摘されている。

 鉄鍋のジャンの主人公秋山醤は、自身の強面な殺気(「なんせ料理は勝負!」の男である。目つきも悪い)のせいで、うまくダチョウが〆られない問題に直面したり、脂身に欠ける肉質への対策として、食用バエのウジを肉に入れることで、サシの代わりにするという奇策を使う。

 

【再現料理】

ダチョウのカルパッチョ

 再現料理の方はさすがに、ウジをサシに入れることはできなかったようで、代わりにカルパッチョミールワームそしてウジ虫(マゴット。オカラを食べさせて育てたイエバエの幼虫)を振り掛けることで対応している。

 

【実食感想】

 ゲンゴロウは初めて食べるが、あまりカルパッチョの食感とは合わない。飾りに近い。

 赤身肉のサシの補填としてマゴットが振り掛けてあるが、むしろミールワームの草っぽい味が邪魔してしまってあまりマゴットの味はわからなかった。

 

【採点】

 89点。

 昆虫の数を増やすより、ダチョウ肉とマゴットのみの方がおいしかったかもしれない。ところで、赤味肉にサシを入れるってインジェクションビーフの発想だ。こっちの方が安全では?

 (そんなことを考えていると「21世紀をサバイバルできねーぜ、カカカ」とジャンにどやされそうだ)

 

 

blog.goo.ne.jp

2.前菜-度肝灼く!アヒルの足の春巻き

 作中、秋山醤達が働く、五番町飯店で新メニューの春巻を考案するコンテストが行われた。

 秋山醤はベトナムライスペーパーににヒントを得て、ライスペーパーを使い、かつコラーゲンたっぷりのアヒルのモミジ(足)を使用した、熱い春巻を考案する。

 醤にとって料理は絶えず勝負なので、審査員の度肝を抜くのが大事である。

 

【再現料理】

 

ヒルの足の春巻き

 HPによると、アヒルの水かき・鶏のトサカ・ミント・香菜などを平湯葉にくるみ、春巻きの皮に巻いて揚げたとのこと。

 原作ではたしかライスペーパーを使用していたはずだが、今回は湯葉皮を使用とのこと。

 

【実食感想】

 さすがに睦十(五番町飯店会長。審査員)のように喉を焼いて悶絶することはなかったが、(食べ方気を付けたし)、これは定番メニューにしてもいいんじゃないかと思うくらいにおいしい。

 ゼラチンの熱さと食感が良いライスペーパーを使用しなかったのは、湯葉の皮の方がパリパリ感が強く良いからかと思ったがどうだろう

 そしてミントや香菜の香りも実によい。これはうまい一品であった。

 

【採点】

 95点。

 もっと地獄のように熱いと面白かったかもしれない。しかしぜひ定番メニューにしてほしい一品。

 本作の春巻回はライバルの一人セリーヌ・楊のヌーベル・シノワの甘い春巻や、小此木の数うちゃあたる作戦の春巻など、非常に面白い春巻きが出ていたので、そちらも食べてみたい。

3.主菜-山海珍味の壷詰め蒸し煮 仏跳牆(フォチャオチャン)

 1980年~90年代、日本でも香港ブームが起きていた。 仏跳牆は本来は福建料理だけども *4 、当時は香港などの宴席でよく出され、漫画『美味しんぼ』などでも取り上げられたことから有名になっていた

 実際、私が仏跳牆を初めて知ったのも、『美味しんぼ』からで「僧侶も垣根を越えてくるくらい旨いスープ」というのはどんなスープなんだと、子供心にすごくあこがれたのを覚えている。

 鉄鍋のジャンの仏跳牆は、主人公の敵役の一人、邪五行道士/裏五行こと伍 行壊が料理するものである。 五行は裏食医の家柄で、本来は食による要人暗殺を請け負ってきた家系の末裔である。(いかにも少年漫画だ)

 

 主人公がドリアン料理を出して来たら、わざと審査員に酒を勧め、ドリアンとの食べ合わせで中毒症状にさせる(そして、主人公のせいにする)。あるいは腹いせに大会主催者の犬(たぶんチャウチャウ)を鍋にするなど、主人公に負けず劣らずな腹黒さと実力のライバルであった。

 この仏跳牆は彼が最初、善人面して登場した際の料理。彼のポリシー*5は本来「料理は成仏」なのだけど、登場時は「料理は愛」「料理は気」と言って善人のふりをしていた。

 

【再現料理】

 

山海珍味の壷詰め蒸し煮 仏跳牆(1)

山海珍味の壷詰め蒸し煮 仏跳牆(2)

 HPではフカヒレ、アワビ、ナマコ、貝柱、複数の漢方生薬を使っているとのこと

 本来宴会料理で、頼めばウン万とするものではあるが、ポーションを小さくしたのと、中に入れる乾物を自作するなどして値段を下げたとのこと。

 

【実食感想】

 初、仏跳牆。

 一緒に行った先輩(50代)はこれが一番食べてみたかったとのことであった。

 ポーションが小さめなので、店の外まで香りが漂うというようなことはないが、それでも開けた瞬間、生薬と海鮮系のだしの良い香りが漂う。味は…味は…無茶苦茶複雑にだしを取った、とてもうまい濃厚スープとしか言えない味であった。

 そしてこれだけ濃厚なのに雑味やえぐみがない…具はすべてだしに取られてしまって、味はしないのだけど、スープが異常に旨い。

 

【採点】

 93点。

 文句のつけようもなく、うまかった。惜しむらくはもう少し香りが立つものかと思っていたが…これは、一度中華の専門店で、ちゃんと食べて味を勉強してみたい。

4.主菜-サメの丸ごと一匹揚げ

 今回のコラボ企画で、一番驚いたのがこの料理である。

 作品中ではイタチサメか何か大型の料理を丸ごと揚げてサメ肉入りのもやしあんかけにしていた。

 当然、サメの丸揚げはできないものと思っていたが、HPを見るとわかる通り、小ぶりのサメの丸揚げにモヤシのあんかけがかかっているのだもの(店の人に聞くとシロザメのベビーシャークと言っていた。胎生だからできるのかな…)

 店のHPでは

 ※もやしにサメを入れることはできませんでした…

とわざわざ注記しているが、それはできなくて仕方ないかと…このサメだけで十分だよ! 

 ただ監修のおやまけいこは、確か文庫版のあとがきで、もやしにひき肉を詰める料理を出す店を実際に知っていると書いてあったような…

 

【実食感想】

 

サメの丸ごと一匹揚げ

 たしかにサメだ・・・

そしてもやしあんかけ。白身魚とモヤシあんかけは定番なくらいに合うので、見た目のインパクトに比して、実は、王道な料理ではある。

 サメもほっこり揚げていて柔らかくておいしい。背骨以外の骨も全部食えてしまう

 

【採点】

 94点。

見た目のインパクトも、味もよかったが少し、背骨のあたりの火の通りが甘い気がしたが、これはたまたまかもしれない。 

 

5.点心-ワニ肉のコーヒーペースト炒め

 アメリカの中華料理のコック、「料理はユニバーサル」が信条のザザビー本郷が作った一品。

 この回は、主人公のライバル湯水スグルとの対決で作られた料理であり、湯水スグルがピスタチオを熟成させたピスタチオペーストのに対し、サザビーはコーヒー醤で対抗する。

 このワニ肉のコーヒーペーストも面白いが、漫画で特筆すべきは、ピスタチオであろうと思われる。

 ピスタチオは今では一般的な食材やペーストとして認知されているが、1990年代、ピスタチオはまだローストして、ナッツなんかと食べるものであり、それをペーストにしようという料理はほとんど知られてなかった。

 今回のコーヒー醤もだけど、ピスタチオペーストを1990年代に取り上げていた、監修おやまけいこ女史の料理研究の冴えが光る回であった。

 漫画ではサザビー本郷より、湯水スグルと執事の刈衣さんのカップルの方が目立っていた。というか私はこのカプが大好きである。

 

【再現料理】

 

 

ワニ肉のコーヒーペーストの炒め


 コーヒーペーストを使用してワニ肉を炒め、揚げたシューマイの皮に盛り付けた一品。 

 写真の通り、盛り付けが一番華やか。

【実食感想】

 美的センスが高い(と作中の設定がなっている)サザビー本郷の盛り付けを意識して一つ一つ、シューマイの籠に盛り付けられ、華やかな見た目の一品。

 

【採点】

 97点。

 コーヒーの香りはそこまでしないけど、淡泊なワニ肉と合わせるとほのかに香って、よい。また、シューマイの皮がワニ肉に適度に脂っ気を加えていて、非常においしい。

 これでコーヒーの量増やすのと、エディブルフラワーでもあしらえば完璧だと思う。

 ジビエジビエ・度肝を抜くという料理が続いていたのでこの繊細さは印象に残った。 

 

6.点心-羊の脳みその茶碗蒸し

 この作品の一番の大ボス、料理評論家、大谷日堂と初めて遭遇した際に、醤が作った料理。

 大谷は「神の舌」を持つ男として作った料理の食材や、手順を当てることができるという男。しかし、大谷はこの茶碗蒸しの隠し味として羊の脳みそを使うという常識外れの発想を見抜けず、赤っ恥をかくのであった。

 この料理から大谷との戦いが始まったと思うと感慨深い料理である。

 

【再現料理】

 

羊の脳みその茶わん蒸し

見た目は完全に茶碗蒸し。ただし、香菜が乗っているのが特徴的。

そしてたしかに漂う羊の香り。大谷先生、これは羊と気づいてほしかった。

 

【採点】

91点。

確かに羊の味のする不思議な茶碗蒸しであった。

ただ私自身、羊の脳味噌は大好物なのだけど、茶碗蒸しに合うかというと少し悩んでしまった。茶碗蒸しって、どっちかというと、さっぱりした味が身上ではないかと…

どうしても見た目から、普通の茶わん蒸しを想像してしまい、そこで羊の味と香りのギャップがいまいち頭の中で整理できなかった

 …ただ、これは羊の分量やそのほかの食材をどこまで入れるかで調整できるかもしれない。茶碗蒸しだけど少し彩りにラー油落とすとかして、見た目を茶碗蒸し風とかにすれば、いいかもしれない

 

総評

 というわけで第一回、酒徒吉風「酔っ払いの舌」杯、優勝はサザビー本郷の「ワニ肉のコーヒーペースト炒め」の97点となりました。

 いやーまさか主人公勢を押しのけて、一番、雑魚役のサザビー本郷の料理が優勝するとは…

 繰り返しになりますが実食感想と採点ははいい加減です。酔っ払いの舌なので、ゆめゆめ皆さまは信用せぬよう願います。

 

 ・・・え、一品評価してないのがある?

 「ハクビシンの地獄鍋」なのですが、この日ハクビシンが入荷しておらず、ハクビシンは食えなかったのでした…

 ハクビシン、とてもおいしいと聞くので、いつの日か食べてみたい…

 

 なお、店の人に話では、もしかしたら鉄鍋のジャンコラボ、第二回をやるかもということでした。

 期待して待っております(ハクビシンももう一度…)

西条真二先生の鉄鍋のジャン色紙。すばらしい

あらためまして、原作者の西条先生、監修のおやまけいこ先生*6、そしてコラボを行った米とサーカスの関係者にファンとして感謝いたします。

*1:1990.08.23     日本初の「ダチョウ牧場」 珍鳥集め「鳥類センター」 石岡への建設最有力     読売新聞、茨城版 朝刊   

*2:1998.02.04     低脂肪で栄養価高く欧米で注目 ダチョウを食卓へ 石岡で食肉用に飼育     読売新聞茨城 版    朝刊  

*3:ちなみに同時期、『美味しんぼ』などでもダチョウやエミューの肉が取り上げられていた

*4:そういえば、四谷の四川料理川雅のお姉さんが福建人だと聞いたので「福建の料理で好きな料理は何?」と聞いたら「それは仏跳牆よ。日本じゃ食べられないけど食べたいわ」と教えてくれた。

*5:この漫画は少年漫画らしく各登場人物がそれぞれ料理のポリシーがある。例えば主人公秋山醤のポリシーは「料理は勝負」

*6:残念ながら亡くなったと聞いている