酒徒行状記

民俗学と酒など

コーヒーを買いに

 K氏との酒は、今日の二日酔いとして残った。いくら歯を磨いても、胃の底から酒の醗酵する匂いがこみ上げてくる。青息吐息とはこのことだ。
 それでも昼過ぎ、友人に誘われ池袋に出かけた。池袋には、旨いドレッシングでサラダを出す、キャンティーという店がある。一つ野菜っ気でも摂って、アルコール分を排出しようと思ったのであった。
 ここのドレッシングは、レシピは不明ながら、塩味が効いていて、呑める日ならばこのドレッシングだけで酒を呑もうと思える代物である。とはいえ今日は、アルコールを排出するのが目的なので昼酒は呑まないでおく。食後のドリンクのトマトジュースだって、ウォッカを入れたいところだが、必死に我慢をし、タバスコと塩胡椒のみにした。(それでも、店の人間と同行の友人には変な顔をされた。了見の狭いことだ。)

 腹に食べ物を入れるとすっかり気分がよくなった。ぷらぷら歩いていると、路地からコーヒーを炒る香りが漂ってきた。
 見ると、ランニング姿のおっちゃんが汗をかきながらコーヒー豆を炒っていた。店舗はコーヒー豆屋とも喫茶店ともつかない店舗で、「豆3割引」「ミルク賞味期限が近いため半額」といった張り紙が雑然と貼ってある。入り口の木のボードにレギュラー180円などと書いてあるからには中でコーヒーも飲めるんだろう。
 中に入って、コーヒーを頼む。セルフサービスで愛想も何もなく、喫茶店というより豆を注文するまでの時間、一杯飲む感じである。
 私はもともとコーヒーはそんなに好きではなかった。母親がコーヒーを嫌いで、子供の時分は飲ませてもらえなかったのもあるし、長じてから喫茶店で飲むコーヒーもそんなに旨いとも思ったことはなかった。けれど、コーヒー豆を炒る匂いは鼻をくすぐって、このときばかりは飲んでみたいと思った。
 友人はカフェオレを頼み。私はレギュラーとマロンケーキを頼む。糖分を摂ることも二日酔いには重要だ。
 このコーヒーが滅法旨かったのだ。カフェオレはミルクや砂糖に負けないコーヒーの味がしているし、レギュラーは苦味を抑え、夏向きに酸味を感じさせる味わいになっている。
 すっかり二日酔いの治った私は嬉しさに、会社で飲む分に豆を買って帰ったのであった。