酒徒行状記

民俗学と酒など

アニメの背景と地理学

 大学の地理学の講義でアニメを活用している。

 私が担当している地理学の講義では地理院地図の読図をさせる講義があるのだけど、その中でいくつかアニメを活用している。

 

 一つは『ゆるキャン△』。

 この作品の第一話は浜松から山梨県南部町から引っ越してきた、各務原なでしこ(通称、なでしこ)が、本栖湖でソロキャンプをしていた志摩りん(通称、りんちゃん)と出会うことから始まる。

 なでしこは南部町(町内のどこが自宅かは明記されていないが通学には内船駅が出てくる)から自転車で本栖湖に向かうのだが、どのルートを走行したかは作中で明記されてはいない。

 そこで、学生に地理院地図の機能を使って、

 ・各務原なでしこは、山梨県南部町内船駅から富士山を見に自転車で行くこ とにした。

(1)本栖湖に行くにはおもに何通りのルートが考えられるか?所要時間は どのくらいか?(自転車の時速は20kmとする)

(2)それぞれのルートはどんな特徴があるか

(3)富士山だけをてっとりばやく見るにはどこにいくのがよかったか

 

 

内船駅(赤丸)から本栖湖(緑丸)の地理院地図

本栖湖周辺拡大

内船駅周辺拡大

 というような問題を解いてもらっている。

 答えは、(次年度の学生のために)割愛するが、もし、なでしこの目的が「富士山を間近で見たい」だけなら、実はわざわざわ本栖湖まで行かなくても、もっと内船駅から近いところで見ることができたという話をしている。*1

 

 もう一つはアニメ『スーパーカブ』。

 山梨県北杜市に住む小熊は、両親も趣味も友達もない何もない少女であった。

 小熊は通学に自転車を使っていたが、ある日、同級生が原付に乗っていたことから、原付に興味をひかれ、スーパーカブを手に入れる。

 スーパカブは小熊に原付に乗る楽しみや友人たちとのツーリングの楽しさを教え、小熊の世界を広げていく。

 というような作品である。

 この小熊の家、アニメでは北杜市北杜市長坂町富岡にある「日野原団地」がモデルとなっており、また小熊の通う高校は、北杜市立武川中学校になっている。

 学生にこれのアニメ第一話の小熊の自転車の通学シーンを見てもらい、どういうルートで通学しているかを考えてもらうとともに、なぜ小熊が原付を欲しがったかを考えてもらっている。

 

小熊の通学路

なぜ小熊には原付が必要なのか

 またもう一つ、このアニメのOPでは登場人物が展望台から甲府盆地を眺めるシーンが出てくるのだが、その映像から、この展望台はどこかというのを考えてもらっている。*2

  

OPのワンシーンから、この景観はA~Fのいずれか読図してもらう

 自分もアニメ・漫画好きだし、結構アニメを講義に盛り込むのは学生の興味も引いて、我ながらよい課題だとちょっと思っている。

 

 ところが最近、問題が… アニメを見るたびに、講義で使えるネタはないかやたら背景ばかり見るようになってしまったのである。

 背景が細かく描かれているアニメも多いのだけど、意外と、地理情報がちゃんと読み取れる作品は少ない。

 そして、もうひとつ問題が 最近はなろう系や異世界転生ものが流行りなせいか、講義に使えそうな、地理情報が明確なアニメが相当少ないのである。

 前期(2023春アニメ)は『江戸前エルフ』は月島の風景がきっちり描かれていて、使えるかなと思って見ていたが、今期(2023年)は何も見つけられていない…

 どなたか、最近の作品で背景の地理情報がきっちりしたアニメがあれば、教えてください…*3

 

 なお、講義にアニメや漫画を使うの、結構いいアイディアかなと思っていたのだけど、検索すると、『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』(あの花)を地理学の講義に使っている論文が見つかった。

 

 秋本弘章 「アニメで読み解く地理空間―GISを利用した地形図学習―」(『環境共生研究』第9号 (2016))

https://core.ac.uk/download/pdf/233129127.pdf

 

 「アニメの中にも武甲山は幾度となく登場しているが,この削られた姿をきちんと描写している(第6図)しばしば「過去は美しい」といわれるが,そう単純ではない。彼らは過去にとらわれながら今を過ごしている。しかも,「過去にはもどれない」。かつての整った山容ではなく,現在の姿を描写した作者の思いが伝わるようである

 

第3話で「じんたん」は「あなる」との約束を守るために2学期の始業式に出るため学校に向かう。石垣が描かれていることからわかるようにここは坂道となっている。この場所は定林寺前の道がモデルであり,上町面と中村面の境となる段丘崖である(第8図,第9図)。また,「じんたん」が始業式に出席することができず時間をつぶしたのが定林寺東側に位置するケヤキ公園で,ベンチの背後に描かれている石垣が段丘崖である。段丘崖の存在が,平坦とは言えない主人公らの日常,直面する悩み,超えるべき壁を示しているようである。

 

 と単純な読図だけではなく、作品世界と景観をリンクさせた読み方をしている。

 実は「あの花」まだ見ていないので、見てみるかと今思っている。

*1:なお、作中では、なでしこが本栖湖まで行った理由として、「富士山を間近で見たい」に加えて、「千円札の裏側に使われている、本栖湖の富士山を見たい」という動機が加えられている。

*2:なお、聖地巡礼サイトなどから割り出すことも可能であるが、なぜここだと判別したか理由も書かせている。

*3:地理学好きとしては、『高杉さんちのおべんとう』をアニメ化してくれると一番ありがたいのだが…