かき氷を普段あまり食べたことがなかった。
かき氷の専門店というのも存在は知っていたが、まあ、かき氷なんてのは祭りの出店で食えばいいのであって、専門店行って高い金を出すくらいなら、バーでうまいフローズンカクテルの一杯も飲んだ方がましだと思っていた。
そんな中、普段バーになっているところが、かき氷屋をやっているのを見つけた。
練馬は豊島園のバー「リボルバー(仮)」。
ここは夜はバーだが昼間は「中町氷菓店 練馬豊島園店」として店をやってるようである。
私はよく、豊島園の<庭の湯>に浸かりに行くので、このバーは気になっていたが、かき氷屋を昼やってるのは気づいていなかった。
「普通かき氷屋には酒はないが、ここならカキ氷を食うついでに、ウイスキーを一杯やるのもできるだろう」ということで人生で初めてカキ氷屋に入ってみた。
メニューは4種類。イチゴとパイナップルと抹茶。それにマジックなんとかという変わり種。
変わり種ははじめ紫色だが、色が変わるというもの。味はレモン風味と言っていたから、アントシアニンの反応を利用したものだろう。豊島園の跡地にハリーポッターの遊園地ができたので、それにあやかって作ったメニューとのことである。
値段は1400円~1800円。せいぜい1000円くらいのものだと思っていたので、ちょっとびっくりであるが、天然氷をつかっているのでそのくらいになるとのこと。
初めてなので、オーソドックスないちごを頼んで、しばし氷が削れるまで、店のマスターと先客(70代位の老夫婦)の話に耳を傾ける。
「練馬でカキ氷屋さんも少ないわよねえ」
「ええ、数軒じゃないかと」
「こないだね、長瀞の有名なカキ氷屋さん行ってきたのよ。知ってる?」
「ええ。阿佐美も天然氷でおしいですよ。」
「この暑さのせいかすごい行列だったわー。車止めるのも一苦労。」
そういえば、大学院の同級生に、実家が長瀞で天然氷のカキ氷を出す店だという男がいた。マスターたちが話しているカキ氷屋(阿佐美冷蔵)とは別の店だが、きっと彼のところも、そこから買ってるのだろう.
同級生の実家。
彼の実家に、同級生皆で遊びに行くという話もあったが、結局果たせずのままである。 彼は2ちゃんねるの書き込みを題材として、「電脳民俗学」という新しい分野を切り開こうとしていたが、卒業後、縁遠くなってしまった。
2ちゃんねるもほぼ終わってしまって、twitterもいろいろ変わってきている。
電脳民俗学が今後どうなるか、彼に久しぶりにあって話聞きたいなあ。
などと考えていると、しだいにかき氷が出来上がっていく。
・生イチゴのシロップに砂糖を入れ、バースプーンでかき混ぜる
・シロップ少量を空のカキ氷の器に入れ壁面にまとわりつかせる
その手順を見ていると、意外とカキ氷とバーテンダーの技術は親和性が高いのではないかと思わせる。
バースプーンでシロップに砂糖を入れて攪拌した後、手の親指と人差し指の股の上にシロップを垂らして味見をするのは、バーテンダーが味見をするときのテクニックの一つである。また、後者のシロップを壁面にまとわせる技なんかは、カクテルのリンスと全く同じ技法である。
バーテンダーの中には包丁で氷の面取りやダイヤモンドカットをする技術を持つ人もあるし、氷とバーは切っても切り離せない関係である。
夜はバーで昼はカキ氷屋というのはアイディアだなあ、と思っていると、かき氷が出来上がり、マスターから「お久しぶりです」と挨拶される。
???。この店初めてなんですけど・・・夜も気にはなってたけど、入ったことないし・・・誰か私に似た常連さんでもいるのかしらん?
「お客さんよく、バーに行くでしょ。」
「え、ええ」
「練馬の<G1>の日下部ですよ。覚えてません?」
「あ、ああ!!!!」
思い出した。練馬で時々飲みに行っていたバーのマスターだった。
練馬は、<アイラ>という超有名店があるが、それ以外のオーセンティックバーは数軒程度で、スナックっぽい店の方が多い。
<G1>は、数少ない練馬のオーセンティックバーの一つで、良いギムレットを飲ませてくれる店だった。NBA(日本バーテンダーアソシエーション)にも加入していて折り目正しいバーだった。
しかし、まさかかき氷屋で、昔なじみのバーテンダーにあうとはびっくりである。
<G1>で会うときはオールバックに白いスーツに蝶ネクタイという姿だったのが、目の前の、氷の文字入りの野球帽被った髭の氷屋の兄ちゃん同一人物とは思えず、大変失礼をしてしまった。
聞けば、実家の町中華が高齢で店を閉めるという話が出たので、<G1>は人に譲り、町中華を経営しているとのこと。
しかし、やはりバーがやりたいので、この場所を借りて、夜<リボルバー(仮)>を経営し、また昼間は、客との縁で松本の「中町氷菓店」とフランチャイズすることができたので、かき氷屋をやってるとのことである。
天然氷でもさっき話の出た長瀞の阿佐美冷蔵の氷は川氷だが、ここのは八ヶ岳の山氷<八義>を使用しているとのことである。
山氷は人気が高くて、ちゃんとした店でないとなかなか取引できないとのこと。
また中町氷菓店は食材のルールが厳しく
・加熱しない生の果物を使うこと
・抹茶とほうじ茶もメーカーが決まっていて、抹茶は知覧のメーカーでなければならない
など、原材料の品質維持がとても大変とのことであった。
さて肝心のカキ氷の味であるが、なるほどふわふわとしていて、すっとなくなるかき氷である。祭り屋台でこめかみを抱えながら食べるものとは大違いであった。
そしてイチゴのシロップもさっぱりとした美味しさである。
せっかく昔のバーテンダーさんに再開したので、バーの方にも顔を出そうと思う。
また、実家の町中華のクサカ亭にも行ってみようと思う。