酒徒行状記

民俗学と酒など

フリーフローランチ

夕べの酒は、今日の昼迄残った。
 昼休み、ニュースサイト『TBN』からリンクの貼られた『腐女子の行く道、萌
える道』を見て、萌え分を補給して僅かに二日酔いから回復。
BLってのがboys loveの略語と気付くまでに時間がかかった。真っ先に、「BM〜
ネクタール〜」って週刊少年チャンピオンに連載されていた漫画を連想する。

 夕方4時を過ぎる頃には体調は完全に戻った。こんな呑んだくれの私でも僅
かばかりのボーナスを頂いたので、終業後、隣の席の同僚と呑みに行くことにする。
 隣席は先の十条斎藤酒場にも一緒に行った、新人のN。最近呑める人材が不足してきたわが社の中で、数少ない呑める新人なので有り難く思っている。
 このN、私と同い年でしかも同じ大学出身であった。
 大学時代はお互い面識はなかったが、聞けば、在学中から、就職した今現在もジャズサークルに所属し、バンドをやってるとのこと。学内でも1,2を争う有名なジャズサークルだったから、私も知らない間に彼の演奏を見ているかも知れぬ。


 折角ジャズ話がでたので、池袋の「FREE FLOW RUNCH」へ連れて行くことにする。
 フリーフローランチは池袋の丸井の近くの雑居ビルの地下にあるバーなのだが、マスター-通称ボス-がジャズ好きで、バンドを呼んで生演奏を毎週水曜と土曜日に行うのだった。
 私はジャズはちっとも詳しくはないが、ボスは以前、高田馬場の『ガーリックチップス』でバーテンダーをしていた。そこの近所の大学生だった私は、ボスが独立して店を持った後も、ボスのカクテルを呑みに通っているわけであった。


 店に着いたのは7時くらい。開けたばかりで他の客はいない。
 まさしく、
「ぼくは店をあけたばかりのバーが好きなんだ。店の中の空気がまだきれいで、冷たくて、何もかも
ぴかぴかに光っていて、バーテンは鏡に向かって、ネクタイがまがってないか、髪が乱れてないかを確かめてる。酒の瓶がきれいにならび、グラスが美しく光って、客を待っているバーテンがその晩の最初の一杯をふって、きれいなマットの上におき、折りたたんだ小さなナプキンをそえる。それをゆっくり味わう。静かな一杯──こんなすばらしいものはないぜ」(レイモンド・チャンドラー著『長いお別れ』清水俊二訳)
 の体である。
 お決まりのギムレットを呑む。別にテリーレノックスに倣った訳ではなく、バーで飲む際は一杯目をギムレットに決めている。呑みなれているせいか不味い時は「体調不良かな。あんまし呑まんとこ」と分かる気がするのだ。
 ここのギムレットはフレッシュライムが少し勝ちすぎているが、夏の一杯目にはちょうどよい。
 面子は一人増えて、同じ課の同僚Kが加わっている。会社を出がけに誘ったのだった。NとKはライム入りのコロナビールを飲んでいる。
 店内のチラシを見ると、今日は生演奏の日らしい。8時半からなので、ゆっくりと酒を呑む。
 今日はAZUMIという大阪出身のシンガーの演奏らしい。


 定刻より僅かに遅れて演奏が始まった。ブルースマンという触れ込みであったが、初めのインスト

と二曲目の「コーヒーとなんとか」という曲はフォーク調であった。
 見ると、Nは頭を抱え込み、Kは居眠りを始めている。私でも店を出る機会を伺いたくなる曲であっ

た。しかも一曲が長いのだ…
 ところが、3曲目でバーの雰囲気は一転した。アップテンポな速い曲調な曲に変わった。今までの、演歌だかフォークだか分からないような、なんだか時代劇のエンディングみたいな曲ではなく。素人の私でも、「難しい技巧をこなしているなあ」と分かる腕前であった。
 Nも手拍子を打ち、Kも起きだした。
 強いて難をあげれば、腕前があるのは分かるのだが、曲の盛り上がらせる部分が何度も何度も続きすぎて、疲れる点であった。かなり引っ張りすぎなのである。
 
 Nの家が遠いため、前半の第一部で帰る。
 帰りにはボスがNに名刺を渡し、演奏をやらないかと声をかけていた。私は「ここで呑みながらNの演奏を聴くのも一興だろう。そのときは職場の連中を何人か誘って行くべ」と家路に着いた。