先の記事(「楊州飯店食単(1)前文&冷盆」
http://sake-manga.hatenablog.com/entry/2020/06/01/183220)
を書いたところTwitterで何人の方から、「店の事を覚えている」「懐かしく思った」という感想をいただいた。
大変ありがたい感想で、励みになると共に、閉店してからおおよそ10年になるのに、客の心に残っているのは、いかに楊州飯店が名店であり、愛された店であることをあらためて感じさせてくれた。
また、紹介している小冊子について、いくつか版違いのバージョンがあることが判明した。ここについては、いただいた情報を整理した後、まとめたいと思う。
では楊州飯店食単。前文&冷盆より続き。魚貝、鶏肉、肉・牛肉の部へ。
- 魚貝の部―双色魚丸
まずは魚貝の部。『酒仙』にも出てくる「炸花枝丸」が目を引くが、その前の「双色魚丸」も気になるところ。
これは単品というより、宴会料理でよく出された記憶がある。
楊州飯店の宴会はスープがたいてい一品は出されるのが特徴であったが、この「双色魚丸」もよく出されたように覚えている。澄んだスープに、可愛らしい二色の魚つみれが浮いている料理で、宴会中、少しつかれた胃を休めてくれる料理であった。
- 炸花枝丸
これも楊さんの得意料理のスペシャリテであった。
楊州飯店の店構えは、今でいう町中華の店構えで、よく言えば味のある―端的に言えば老朽化し、隙間風が入る店構えであった。昔、冬場、職場の宴会でここにつれてきた女性からは「なぜこの店は、建物の中なのにオープンエアなの?」という名言を頂戴したほどであった。
初めて連れてきた客は、店のおどろおどろしさと、玄関わきの食品サンプルに、肝を冷やし「ああ、吉風に騙されてえらいとこに来てしまった」という顔をするのであるが、前菜の腸詰と炸花枝丸を食べさせた瞬間に、「これはうまい。これは素晴らしい店だ」とすぐさま考えを改めるのであった。楊州に知り合いをよく連れて行ったのはこの顔を見たいというのもあったかもしれない。
南條氏も作品で書いているが楊州の炸花枝丸は外はかりっとして、噛むと汁があふれ出てくる炸花枝丸であった。
昼下がり、店内の古ぼけたテレビ(ときどきノイズが混じる小さいテレビ)を見ながら、炸花枝丸の汁で「うまいー!熱いー!」となった舌を、青島ビールと甘酢の利いた辣白菜で冷ますのは、最高の時間の過ごし方であった。
- 鶏肉・肉・牛肉の部―紅焼猪肉、東坡肉
肉の中で、牛や鶏は牛肉・鶏肉と記されているが、豚肉は「肉」とのみ記されてる。やはり中華で肉といえば豚をさし、豚料理に秀でた料理が多いが、楊氏も肉料理の中では豚を得意とした。
楊氏の料理、鶏や牛の料理もいただいたはずだが、不思議と覚えているのは豚肉の料理が主である。それだけ、おいしい「肉」料理を出してくれる店であった。
このblogを書くまで気づいていなかったが紅焼猪肉は「豚肉角煮青菜添え」の、東坡肉「豚の蒸し煮」と説明が振っている。 現在、レシピによっては、両方とも豚の角煮と説明する向きもあるが、この店ではきちんと区別がつけられていた。
宴席良く出されたのは東坡肉であったように覚えている。脂の感触が程よく、柔らかい料理であった。
- 鶏肉・肉・牛肉の部―紅焼猪掌
この店の名物として紅焼猪掌(豚足の醤油煮)を挙げる方も多かった。
この店に通っていたころ、まだ私は豚足の良さを知らず、ついぞ食わずに終わってしまった。考えてみれば楊州飯店の豚足は、『酒仙』にも出てくるのに、もったいないことをしたと後悔している。
あと豚肉料理としては、醤油煮ではなく、野菜のうま煮かなにか、白い豚肉と野菜を合わせた料理がよく出された。
料理の名前は失念したが、四角く、ちょうどパウンドケーキのように切られた豚肉を皿に並べ、青野菜ととろみのついた餡を合わせて食べるあの料理の味は忘れられない。
以下、次回。鶏鴨蛋の部へ*1