酒徒行状記

民俗学と酒など

プリゴジンのホットドッグ―エフゲニー・プリコジンのカバーストーリー「料理人」をめぐって

 世界最強の料理人が死んだ。

 エフゲニー・プリゴジンが暗殺されたのである。

はじめに

 エフゲニー・プリゴジン。別名「プーチンの料理人」。

 1980年代、殺人や詐欺などで服役したあと後、1990年にホットドッグチェーン店を開き、食料品チェーン「コントラスト」の共同経営やスペクトラムCJSC(ЗАО«Спектр»)の最高責任者としてカジノなどの事業に参加。

 1995年、サンクトペテルブルグで高級レストラン“The Old Customs House” (Staraya Tamozhnya。旧税関)、船上レストラン“New Island.”などを経営し、また同時期、当時サンクトペテルブルグ市長だったウラジーミル・プーチンの知己を得て、政府や軍の食糧などに食料品などを納入するケータリング会社「コンコルド」を設立。

 そして2014年民間軍事会社「ワグネル・グループ」を設立。ロシア軍の秘密部隊として、ウクライナ紛争に介入。ドネツクおよびルガンスク人民共和国の分離主義勢力を支援。また2016年にはアメリカ大統領選挙で秘密工作に携わる。

 2022年のロシア・ウクライナ戦争では、ワグネル・グループはロシア軍の主力部隊のとして最前線で活動。2023年、ロシア・ウクライナ戦争におけるロシア軍の戦況悪化は、プーチンを取り巻くセルゲイ・ショイグ国防大臣やワレリー・ゲラシモフ参謀総長といった君側の奸のせいであるとして、ワグネルの反乱を起こす。

 ワグネルの反乱では民衆の支持を得てロストフ・ナ・ドヌを占領。モスクワまで200kmの地点まで、部隊を侵攻させるが、急遽進軍停止。乱はわずか一日で終わることとなる。

 その後、反乱の停戦の仲介を行った、ルカシェンコ大統領のもとベラルーシなどに潜伏。しかし乱の2か月後、プライベートジェットが墜落。墜落の原因は8月24日現在不明だが、地対空ミサイルで撃墜されたとも言われ、暗殺の可能性が高いとされる。

 これが現在Wikipediaなどに記載されている彼の生涯であるが、実は「料理人」というのは彼の経歴を隠すカバーストーリであり、本業はサンクトペテルブルクの闇カジノ経営だったとされている。

www.newsweekjapan.jp

 2014年のロシア・ウクライナ紛争・2022年ロシア・ウクライナ戦争とその中で起きたワグネルの乱については、歴史家が詳細な記述をしてくれるだろうが、私は後世の歴史家があまり注目しないであろう、彼のカバースト―リ―である「料理人」に着目し、彼が経営するレストランはどうであったか、そして彼がなぜ「料理人」というストーリーを作ったのかメモとして記したいと思う。

1.ホットドッグチェーン店

 Wikipediaなどによると彼の料理人としての最初の経歴は、1990年義父(または継父)とサンクトベテルブルグで立ち上げたホットドッグチェーン店あるいは屋台に始まる。

 このチェーン店がどのようなものであったか、店名などもわからない。

 ロシアにおけるホットドッグは、ニキータ・フルシチョフが1959年の渡米からアイデアを持ちかえったことことに始まるとされるが、当時ソ連で食べられていたのは現在,一般的に日本人がイメージするホットドッグ(細長いパンを縦に切り、ソーセージを挟んだもの)とは異なり、“サシースカ・フ・テステ”(ソーセージ入りパン)として、ソーセージにパイ生地またはピザ生地を巻き付けて焼いた、ソーセージパンに近いものであった。

jp.rbth.com

 上記記事によると

1990年代になって、企業の私有化と小さなテイクアウトショップの登場により、ようやくホットドッグは一般的となった

 とあり、プリコジンのチェーン店でも、現在イメージするようなホットドッグではなく、ソーセージパンに近いホットドッグが提供されていたのではないかと思われる。

 ロシアでは現在、Stardogs(Стардогс)というホットドッグのチェーン店があり、このチェーンも1993年創業となっている。

 プリコジンのこのホットドッグチェーン店が現在どうなっているかはわからないが、現在、サンクトベテルブルグにはそれらしいチェーンのホットドッグ屋の情報がないこと見ると廃業になったものと思われる。

 

 なお、このホットドッグ経営はカバ―ストーリーの中で、ブリコジンが唯一料理を実際に行った可能性のある部分である

 というのも、このホットドッグ経営について、全くの嘘の可能性もあるが、「ホットドッグの屋台で財を成す」という、かなり荒唐無稽な話をカバーストーリーとして作るとは思えず、*1実際に財を成したのは闇カジノであっても、表向きは多少はプリコジン自身もホットドッグを「調理」した可能性もあるのではないかと思われる。

2.高級レストラン“The Old Customs House” (Staraya Tamozhnya。旧税関) 

旧税関と名付けられたStaraya Tamozhnyaは、サンクトベテルブルグのワシリエフスキー島に作られた高級レストランである。
 旧税関という店名は皇帝の命令で、洪水から守るため税関物品を保管していた建物にレストランがあることによる。
 

*1:嘘ならもう少し信憑性のありそうな話を作る。また完全に架空の店で、しかも繁盛したという、カバーストーリーを作ると、地元住民から「そんなホットドッグ屋聞いたことはない」と嘘が見抜かれる可能性も出てくる。

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アニメの背景と地理学

 大学の地理学の講義でアニメを活用している。

 私が担当している地理学の講義では地理院地図の読図をさせる講義があるのだけど、その中でいくつかアニメを活用している。

 

 一つは『ゆるキャン△』。

 この作品の第一話は浜松から山梨県南部町から引っ越してきた、各務原なでしこ(通称、なでしこ)が、本栖湖でソロキャンプをしていた志摩りん(通称、りんちゃん)と出会うことから始まる。

 なでしこは南部町(町内のどこが自宅かは明記されていないが通学には内船駅が出てくる)から自転車で本栖湖に向かうのだが、どのルートを走行したかは作中で明記されてはいない。

 そこで、学生に地理院地図の機能を使って、

 ・各務原なでしこは、山梨県南部町内船駅から富士山を見に自転車で行くこ とにした。

(1)本栖湖に行くにはおもに何通りのルートが考えられるか?所要時間は どのくらいか?(自転車の時速は20kmとする)

(2)それぞれのルートはどんな特徴があるか

(3)富士山だけをてっとりばやく見るにはどこにいくのがよかったか

 

 

内船駅(赤丸)から本栖湖(緑丸)の地理院地図

本栖湖周辺拡大

内船駅周辺拡大

 というような問題を解いてもらっている。

 答えは、(次年度の学生のために)割愛するが、もし、なでしこの目的が「富士山を間近で見たい」だけなら、実はわざわざわ本栖湖まで行かなくても、もっと内船駅から近いところで見ることができたという話をしている。*1

 

 もう一つはアニメ『スーパーカブ』。

 山梨県北杜市に住む小熊は、両親も趣味も友達もない何もない少女であった。

 小熊は通学に自転車を使っていたが、ある日、同級生が原付に乗っていたことから、原付に興味をひかれ、スーパーカブを手に入れる。

 スーパカブは小熊に原付に乗る楽しみや友人たちとのツーリングの楽しさを教え、小熊の世界を広げていく。

 というような作品である。

 この小熊の家、アニメでは北杜市北杜市長坂町富岡にある「日野原団地」がモデルとなっており、また小熊の通う高校は、北杜市立武川中学校になっている。

 学生にこれのアニメ第一話の小熊の自転車の通学シーンを見てもらい、どういうルートで通学しているかを考えてもらうとともに、なぜ小熊が原付を欲しがったかを考えてもらっている。

 

小熊の通学路

なぜ小熊には原付が必要なのか

 またもう一つ、このアニメのOPでは登場人物が展望台から甲府盆地を眺めるシーンが出てくるのだが、その映像から、この展望台はどこかというのを考えてもらっている。*2

  

OPのワンシーンから、この景観はA~Fのいずれか読図してもらう

 自分もアニメ・漫画好きだし、結構アニメを講義に盛り込むのは学生の興味も引いて、我ながらよい課題だとちょっと思っている。

 

 ところが最近、問題が… アニメを見るたびに、講義で使えるネタはないかやたら背景ばかり見るようになってしまったのである。

 背景が細かく描かれているアニメも多いのだけど、意外と、地理情報がちゃんと読み取れる作品は少ない。

 そして、もうひとつ問題が 最近はなろう系や異世界転生ものが流行りなせいか、講義に使えそうな、地理情報が明確なアニメが相当少ないのである。

 前期(2023春アニメ)は『江戸前エルフ』は月島の風景がきっちり描かれていて、使えるかなと思って見ていたが、今期(2023年)は何も見つけられていない…

 どなたか、最近の作品で背景の地理情報がきっちりしたアニメがあれば、教えてください…*3

 

 なお、講義にアニメや漫画を使うの、結構いいアイディアかなと思っていたのだけど、検索すると、『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』(あの花)を地理学の講義に使っている論文が見つかった。

 

 秋本弘章 「アニメで読み解く地理空間―GISを利用した地形図学習―」(『環境共生研究』第9号 (2016))

https://core.ac.uk/download/pdf/233129127.pdf

 

 「アニメの中にも武甲山は幾度となく登場しているが,この削られた姿をきちんと描写している(第6図)しばしば「過去は美しい」といわれるが,そう単純ではない。彼らは過去にとらわれながら今を過ごしている。しかも,「過去にはもどれない」。かつての整った山容ではなく,現在の姿を描写した作者の思いが伝わるようである

 

第3話で「じんたん」は「あなる」との約束を守るために2学期の始業式に出るため学校に向かう。石垣が描かれていることからわかるようにここは坂道となっている。この場所は定林寺前の道がモデルであり,上町面と中村面の境となる段丘崖である(第8図,第9図)。また,「じんたん」が始業式に出席することができず時間をつぶしたのが定林寺東側に位置するケヤキ公園で,ベンチの背後に描かれている石垣が段丘崖である。段丘崖の存在が,平坦とは言えない主人公らの日常,直面する悩み,超えるべき壁を示しているようである。

 

 と単純な読図だけではなく、作品世界と景観をリンクさせた読み方をしている。

 実は「あの花」まだ見ていないので、見てみるかと今思っている。

*1:なお、作中では、なでしこが本栖湖まで行った理由として、「富士山を間近で見たい」に加えて、「千円札の裏側に使われている、本栖湖の富士山を見たい」という動機が加えられている。

*2:なお、聖地巡礼サイトなどから割り出すことも可能であるが、なぜここだと判別したか理由も書かせている。

*3:地理学好きとしては、『高杉さんちのおべんとう』をアニメ化してくれると一番ありがたいのだが…

人生初のカキ氷屋で、昔なじみのバーテンダーと再会する

 かき氷を普段あまり食べたことがなかった。

 かき氷の専門店というのも存在は知っていたが、まあ、かき氷なんてのは祭りの出店で食えばいいのであって、専門店行って高い金を出すくらいなら、バーでうまいフローズンカクテルの一杯も飲んだ方がましだと思っていた。

 そんな中、普段バーになっているところが、かき氷屋をやっているのを見つけた。

 練馬は豊島園のバー「リボルバー(仮)」。

 ここは夜はバーだが昼間は「中町氷菓店 練馬豊島園店」として店をやってるようである。

 

tabelog.com 

tabelog.com

 私はよく、豊島園の<庭の湯>に浸かりに行くので、このバーは気になっていたが、かき氷屋を昼やってるのは気づいていなかった。

 「普通かき氷屋には酒はないが、ここならカキ氷を食うついでに、ウイスキーを一杯やるのもできるだろう」ということで人生で初めてカキ氷屋に入ってみた。

 メニューは4種類。イチゴとパイナップルと抹茶。それにマジックなんとかという変わり種。

 変わり種ははじめ紫色だが、色が変わるというもの。味はレモン風味と言っていたから、アントシアニンの反応を利用したものだろう。豊島園の跡地にハリーポッターの遊園地ができたので、それにあやかって作ったメニューとのことである。

 値段は1400円~1800円。せいぜい1000円くらいのものだと思っていたので、ちょっとびっくりであるが、天然氷をつかっているのでそのくらいになるとのこと。

 

 初めてなので、オーソドックスないちごを頼んで、しばし氷が削れるまで、店のマスターと先客(70代位の老夫婦)の話に耳を傾ける。

 「練馬でカキ氷屋さんも少ないわよねえ」

 「ええ、数軒じゃないかと」

 「こないだね、長瀞の有名なカキ氷屋さん行ってきたのよ。知ってる?」

 「ええ。阿佐美も天然氷でおしいですよ。」

 「この暑さのせいかすごい行列だったわー。車止めるのも一苦労。」

 「あそこは、長瀞一の高額納税者らしいですからね。」

 そういえば、大学院の同級生に、実家が長瀞で天然氷のカキ氷を出す店だという男がいた。マスターたちが話しているカキ氷屋(阿佐美冷蔵)とは別の店だが、きっと彼のところも、そこから買ってるのだろう.

  

asamireizou.blog.jp

同級生の実家。

jutaro123.com

 彼の実家に、同級生皆で遊びに行くという話もあったが、結局果たせずのままである。 彼は2ちゃんねるの書き込みを題材として、「電脳民俗学」という新しい分野を切り開こうとしていたが、卒業後、縁遠くなってしまった。

cir.nii.ac.jp

 2ちゃんねるもほぼ終わってしまって、twitterもいろいろ変わってきている。

 電脳民俗学が今後どうなるか、彼に久しぶりにあって話聞きたいなあ。  

 などと考えていると、しだいにかき氷が出来上がっていく。

 

 ・生イチゴのシロップに砂糖を入れ、バースプーンでかき混ぜる

 ・シロップ少量を空のカキ氷の器に入れ壁面にまとわりつかせる

 その手順を見ていると、意外とカキ氷とバーテンダーの技術は親和性が高いのではないかと思わせる。

 バースプーンでシロップに砂糖を入れて攪拌した後、手の親指と人差し指の股の上にシロップを垂らして味見をするのは、バーテンダーが味見をするときのテクニックの一つである。また、後者のシロップを壁面にまとわせる技なんかは、カクテルのリンスと全く同じ技法である。

 バーテンダーの中には包丁で氷の面取りやダイヤモンドカットをする技術を持つ人もあるし、氷とバーは切っても切り離せない関係である。

 夜はバーで昼はカキ氷屋というのはアイディアだなあ、と思っていると、かき氷が出来上がり、マスターから「お久しぶりです」と挨拶される。

 ???。この店初めてなんですけど・・・夜も気にはなってたけど、入ったことないし・・・誰か私に似た常連さんでもいるのかしらん?

 「お客さんよく、バーに行くでしょ。」

 「え、ええ」

 「練馬の<G1>の日下部ですよ。覚えてません?」

 「あ、ああ!!!!」

 思い出した。練馬で時々飲みに行っていたバーのマスターだった。

 練馬は、<アイラ>という超有名店があるが、それ以外のオーセンティックバーは数軒程度で、スナックっぽい店の方が多い。

 <G1>は、数少ない練馬のオーセンティックバーの一つで、良いギムレットを飲ませてくれる店だった。NBA(日本バーテンダーアソシエーション)にも加入していて折り目正しいバーだった。

 しかし、まさかかき氷屋で、昔なじみのバーテンダーにあうとはびっくりである。

 <G1>で会うときはオールバックに白いスーツに蝶ネクタイという姿だったのが、目の前の、氷の文字入りの野球帽被った髭の氷屋の兄ちゃん同一人物とは思えず、大変失礼をしてしまった。

 

 聞けば、実家の町中華が高齢で店を閉めるという話が出たので、<G1>は人に譲り、町中華を経営しているとのこと。

 しかし、やはりバーがやりたいので、この場所を借りて、夜<リボルバー(仮)>を経営し、また昼間は、客との縁で松本の「中町氷菓店」とフランチャイズすることができたので、かき氷屋をやってるとのことである。

 天然氷でもさっき話の出た長瀞の阿佐美冷蔵の氷は川氷だが、ここのは八ヶ岳の山氷<八義>を使用しているとのことである。

 

yatsu-yoshi.com

 山氷は人気が高くて、ちゃんとした店でないとなかなか取引できないとのこと。

 また中町氷菓店は食材のルールが厳しく

  ・加熱しない生の果物を使うこと

  ・抹茶とほうじ茶もメーカーが決まっていて、抹茶は知覧のメーカーでなければならない

 など、原材料の品質維持がとても大変とのことであった。

 

 さて肝心のカキ氷の味であるが、なるほどふわふわとしていて、すっとなくなるかき氷である。祭り屋台でこめかみを抱えながら食べるものとは大違いであった。

 そしてイチゴのシロップもさっぱりとした美味しさである。

 

中町氷菓店 練馬豊島園店のかき氷イチゴ味

中町氷菓店 練馬豊島園店のかき氷イチゴ味

 せっかく昔のバーテンダーさんに再開したので、バーの方にも顔を出そうと思う。

 また、実家の町中華のクサカ亭にも行ってみようと思う。  

tabelog.com 

 

 

  

 

 

今後日本で流行ってほしい中国料理(1)—三杯皮蛋

 汁無しタンタンメン、よだれ鶏、炸鶏排、米線…近年、中華系の方々が増えているせいなのか、様々な中華食材や中華料理が日本に定着していて、中華料理好きとしてはうれしい。

 

 とくに、大好物のよだれ鶏(口水鶏)が定着しつつあるのはとてもうれしい。

 よだれどり、どうしても「よだれ」という語感に抵抗ある人もいたが、「よだれどりの素」なんていうソースまでスーパーに並べられるようになって、今ではいちいち

よだれ鶏のよだれというのは、中国の作家、郭沫若が故郷の味を偲んで、「この鶏料理の味を思い出すとよだれが出る」としたエッセイに基づいたもので、由緒ある名前なのですよ」

といちいち説明を入れなくてもよいようになったのはありがたい。

filled-with-deities.hatenablog.jp

 さて、よだれ鶏に次いで、日本でブームが来てほしい中国料理の妄想をしてみる。

 

 大抵こういう料理は、自分の好きな料理だったりするので、日本で気軽に食べられると嬉しいし、なによりかにより、早いうちから書いておけば、「自分はこの料理に早くから目をつけていたもんね」とドヤ顔ができる。

 

 ではでは、「日本で今後、ブームが来る(来てほしい)中国料理!」第一回は「三杯皮蛋」をとり上げたいと思う。

  「三杯」というのは酒、ゴマ油、醤油を合わせた調味料の事。日本でも二杯酢(酢と醤油をまぜる)、三杯酢(酢と醤油とみりんまたは砂糖をまぜる)というのがあるが、それの中華版だと思うとよい。

 この三杯で、鶏肉やらジャガイモやら皮蛋やらを炒め煮にするのを「三杯」と呼び、鶏ならば、三杯鶏、ジャガイモなら、三杯馬鈴薯、皮蛋なら三杯皮蛋と食材によって名前が変わってくる。

 私は食べたことはないが、台湾の粉丝(Twitterフォロワー)、Cyrixhero @cyrixhero 氏の情報によるとタマカイ(龍胆石斑)を食材にした三杯龍胆石斑もあるとの由。

 白身魚でやるのもいいだろう。

 

 三杯のたれのほかにこの料理の特徴はバジル(九層塔)を大量に加えることである。

 少し甘辛な醤油の味にごま油とバジルの香りが相まって、夏向きな良い料理である

 

 百度をひくと、この合わせ調味料は江西料理がもとで、労に繋がれた文天祥のために獄卒が限られた材料で、調味料を作って差し上げたものが、後に、客家料理にとりこまれたとある。

 

baike.baidu.com

 日本では客家料理というより、台湾の名物料理として知られている。

 

80c.jp

 自分も、この料理はかつて麹町にあった台湾料理の名店<台湾食堂>で覚えた。

tabelog.com

 私が、この店で好きだったのは三杯皮蛋。

 レシピはこんな感じ。

 

1.酒(できれば紹興酒がよい)・醤油・ごま油を同量ずつまぜる(中華料理では、先に合わせ調味料を作っておくのを椀献(わんちぇん)とよぶ。)

2.適宜味を見ながら、1の調味料に砂糖を加える

3.フライパンに油をひいて、弱火で生姜とニンニク・唐辛子適量を炒めて香り付けをする

4.油に香りが移ったら、一口大にした鶏肉を中火で炒める

5.鶏肉に半ば火が通ったら、串切りにした皮蛋を加え、1の調味料を入れる。

6.調味料を入れたら少し火を弱くして、10分ほど煮て水分を飛ばす。

7.水分がだいぶ飛んだ段階で大量のバジルと黒酢一匙を入れて、蓋して余熱でバジルに火を通して完成。

※正しいレシピや分量は適宜のサイトをご覧下さい。

 

 

 普通の三杯鶏もおいしいが、この三杯皮蛋は火を通して味が濃くなった皮蛋の風味が

、バジルと甘辛の三杯の味(砂糖と唐辛子を少し多めに入れるのがコツ)と合わさって、より最高なのである。

 皮蛋は火を通してもうまいというのは大声で広めたい料理方法の一つである。

 

 自分は夏、バジルを育てているが、一人暮らしだとどうしてもバジルの葉の成長に消費が追い付かず、葉っぱが余ってしまう。この料理なら、一気にバジルを消費できるのでお勧めである。 

 

 

この料理、なかなか、現地味の台湾料理屋でないとなかなか見かけない。

タイヤル族の女将さんが経営する、新宿中井の<茶屋>では三杯鶏はあるが、三杯皮蛋は出していなかった。

 

note.com

ぜひ、日本でも、ブームになって、あっちこっちで食べられるといいのだけど。

うさばらし中野飲み歩き

 仕事の事やらプライベートの事やら問題が同時多発的に起きてしまい、どうも気が滅入いる。

 こういう時は、何をしてもだめなので安易に酒をのんだくれて、回復に努めることにする。 

 というわけで飲んだくれうさばらし中野飲み歩き日記。

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 終業後、途中駅の代々木でおりる。

 打ち合わせなどで、朝からおにぎり一個しか食べていなかったので、久しぶりに駅前のラーメン屋Aに入る
 この店、前は豚骨醤油ラーメン一択だったのが、塩味などが増えていた。いやな予感がするが、ベーシックなラーメンを頼む。
 やはり予想通り、かなり味が落ちていた…結構この店味にムラがある気がする。でも時々食べたくなるのである…

 

 ラーメンを食った後、総武線に乗る。

 せっかくなので普段いかない千葉方面にでも行って飲んだくれようかとも思ったが、新規開拓する気力体力がない、なので、昔よく飲んでいた中野にいく。

 中野は北口と南口に分かれるが(もうすぐ再開発で西口もできるらしい)、飲み屋が多いのは北口である。

 昔は北口の5番街に鳥茂という旨い焼き鳥屋があってよく贔屓にしていた。ピーマン肉詰めと混合と称する豚と鳥の合い串が絶品だった。

tabelog.com しかし2年ほど前小火事を出してしまい、閉業。

 鳥茂は、割り箸をおいておらず、焼き鳥の細串を箸代わりにするという店だったが、もうあの細串でつまみが食えないと思うと、悲しくて落ちこんだこともあった

 ただ、幸いにして、その後、同じ5番街に酒蔵大雅(おおまさ)という店を見つけて、中野に来るときはここに通うにしている。

 

tabelog.com

 ここも鳥茂と同じくらい古く、安くてうまい。

 転がり込むようにして、ウイスキーロック角を注文。お通しはバイ貝のぬた。

 ぬたがお通しに出る店は大抵味の良い店だと思っている。

 

 20代のころ、私は酒を中野で覚えたが、不思議とここらへんの飲み屋はシングル280円~350円位の店が多い。もちろん、シングルモルトなどではなく、角・トリスといった日本産のブレンデットウイスキーであるが、それでもこの価格帯はありがたい。

 また大雅は、樽酒を頼むとちゃんと1合升でしかも、大きめの皿にこぼして出してくれる。

 

大雅、枡入りの樽酒

 造り酒屋の人がよく、居酒屋の一合と酒蔵の一合は違う(大抵の居酒屋の1合は8勺くらいである)というが、ここは正真の1合プラスでとてもうれしい。

 枡酒2杯飲みながら、牛レバ焼2本、ハラミのたたき、ヒラメのえんがわ頼む。

 どの料理も甚だ美味だが、ヒラメのえんがわは、こりこりと分厚く特によかった。

ヒラメのえんがわ。担鰭骨 さいこー

 カウンターに座ったおじさんと、「中野は意外と坂が多い」「中野富士見町のあたりは一番標高が低くて、よく神田川があふれた」「豊島園の北側は確か都の所有で、南が西武の所有だった。なんか裁判があって、西武が負けた」なんていう話を聞いて帰る。

 その後、中野の南口のバ―TRIPLE SECに行くが、休み。

 

bamboo-bar.air-nifty.com

 この店は元は店名をジョージア・ムーンと言って、私にギムレットの味を教えてくれた加納というバーテンダーさんがいるのである。いまではやる人も増えたが、20年以上前にギムレットの甘味付けに和三盆使うのをこの人から教わった。*1

 その後店名などはいろいろ変わったり、加納さんも別の場所で働いたりといろいろあったが、何年か前この店にもどって、再びカクテルを作り始めている。

 久しぶりに中野に来たので、加納さんのギムレットが飲みたかったけども、休みなのは残念、なので東中野に行って、バー14に行く。

 ここは、西部劇とオタク趣味をコンセプトにしたバーである。アド街なんかでも出ていたのでそれで知ってる人もあるかと。

sites.google.com

 アイリッシュウイスキーロック1杯
 あとブレンデッドウイスキーをストレート1杯。ブレンデッド、スモーキーでうまい。

 マスターとお客さんが以前、宇治の縣神社の祭礼を見たとのことでその動画を見せてもらう。マスターたちは本来は『響けユーフォニアム』の聖地巡礼に行ったのだが、たまたま祭礼の日だったとのこと

 幣や梵天を神輿につけるのは聞くが、そこに人が乗るのは初めて聞く。一度見に行ってみたいものだ。

 

agatajinjya.com

 
 そんな話を駄弁っていると、マスターが看板娘代わりに飾っているドールの調子が悪いとのこと。客同士手伝って修理する。たまたま客の一人に部品設計などの会社に勤めている人がいたので助かった。さすがプロである。

人生初ドールの修理

 コックのサカマン氏につまみにパスタもらって、コロナビール飲む。

 

銃・パスタ・コロナ(『銃・鉄・病原菌』のもじり)

 帰宅してレモンサワー500ml飲みながら寝る。最近麒麟百年の檸檬サワーにはまってこればかり飲んでいる

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以上が中野うさばらし飲み歩き日記である。

憂さが晴れたかはわからない。Trouble is my businessな日々である。

 

*1:ちなみに、もっとユニークなのは東中野のバーSmoke Saltの佐々木氏のギムレットであった。

tabelog.com

 

今は作り方は違うが、その昔、7upの炭酸を飛ばしたものをギムレットの甘味付けに使っていたのだった。7upを使うやり方は和三盆よりも入手が楽だし、少し軽やかな感じがしてお勧めです

関西将棋巡り(下)

 関西将棋会館とイレブンを後にした翌日、私は、通天閣に関西に住む友人と行った。

 友人はずっと関東住まいであったが、最近京都に就職が決まって上方に移った人間で、ようよう京都には慣れてきたが、大阪はあまり来たことなく、まだ通天閣も上ったことないという。

 前日、北新地のええとこでのんだし*1、そんなら今日は通いなれた新世界を、友人に案内しようというのが一つ、そしてもう一つは、将棋巡りのついでに通天閣の下に阪田三吉を記念した王将碑があるのを見に行こうと思ったのであった。

(1)阪田三吉将棋碑

 現在、日本では、全国のプロ棋士の統一連盟として「日本将棋連盟」がある。

 しかし、1930年代までは東京将棋連盟、関西将棋研究会、棋正会といった、さまざまな団体が存在していた。

 いわば統一リーグがなく、各地にプロリーグがある群雄割拠の状態であった。

 阪田三吉は。戦前関西の将棋界「関西将棋研究会」の代表として、東京の東京将棋連盟と渡り合っていた棋士である。

 彼が率いた関西将棋研究会は最後まで、東京を中心とした日本将棋連盟(関西の将棋リーグの一つ棋正会が先に東京将棋連盟と合流したため、東京中心の組織だが日本将棋連盟と名乗っていた)に抵抗し、関西の雄として名を馳せていた。

 通天閣の下にある王将碑は彼を記念した碑であり。この碑自体も、巨大な王将の駒をそのまま石碑にしているのもユニークであるが、実はより面白いのは、そこのすぐ横に、将棋の盤面を示した碑がある点である。

 

王将碑

「銀が泣いている」投了図

 この盤面は、大正2年阪田三吉の終生のライバルである関根金治郎八段との香落ち戦の投了図(阪田三吉の勝利)を再現したものである。

*1:とある方にキタのいいフレンチの店を紹介してもらった。聞けばアルザスで修業された方とのこと。今年一番うまいワインをのんだ気がする。ビストロケ ヤマネ (Bistroquet YAMANE) - 北新地/ビストロ | 食べログ

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関西将棋巡り(上)

承前

 将棋好きの人はもうご存じだと思うが、2024年、日本将棋連盟100周年を記念して東京の日本将棋会館と大阪の関西将棋会館が建て替えられることになっている。

 東京千駄ヶ谷日本将棋会館は、現在の位置からほとんど変わらない、千駄ヶ谷の駅前の千駄ケ谷センタービルに移るだけだが、大阪福島の関西将棋会館は現在の位置からだいぶ離れた大阪高槻市に移転することになっている。

  この一月、たまたま関西に行く機会があったので、ふと大阪の将棋関係の場所を巡ろうと思い立ったわけだが、しかし、なぜわざわざ将棋好きでもない私が関西将棋会館に行こうかと思い立ったのには2つ理由がある。

 一つは、ここ何年か白鳥士郎の『りゅうおうのおしごと』にはまっているからである。

 『りゅうおうのおしごと』は16歳という異例の若さで将棋のタイトルを取った九頭竜八一のもとに、女子小学生の弟子(小学生だが、当然ヒロインとして天才的に将棋が強い)が入門し、互いに成長していくというラノベである。

 こう書くと、ありきたりなラノベであるが、白鳥氏の取材力の高さや筆力により、ラノベの皮を被った熱い将棋小説なのである。*1もっとも、取材力が高すぎるせいか、現実世界の藤井聡太竜王(19歳で竜王位奪取)の活躍を予言することになり「現実に、負けるな。 いま一番、現実に追い抜かれそうな将棋ラノベ最新刊!」などという帯をつけられることになってしまっているが…

 そして、この小説が面白いのは、東京の棋士たちではなく、関西の棋士を描いており、通天閣ジャンジャン横丁、法善寺横丁などの大阪を中心とした関西の風景が良く描写される点にもある。

 当然関西の棋士たちが活躍する関西将棋会館も描写されている。

 

 「こ、ここが・・・・・・しょーぎかいかん・・・・・・!」

 関西将棋会館の前に到着すると、あいは感極まった様子でこう言った。

 「すっごく、その・・・・・・わかりやすいです!」

 「壁にめっちゃデカくかいてあるからな『将棋会館』て」

 大阪駅から環状線で一駅隣の福島。その福島駅から徒歩二分の五階建てのビル。

 それが日本将棋連盟関西本部の拠点たる関西将棋会館—通称『連盟』だ。(『りゅうおうのおしごと』第1巻)

 この関西将棋会館をぜひ移転する前に見てみようと思ったのが、理由の第一であった。よくある聖地巡礼いように「うへへ、ここにあいちゃんが…」とか「桂香さんがみえる、みえるぞ」というわけではないことは念を押しておきたい。

 

 もう一つの目的は、関西将棋会館に併設する洋食店イレブンの「珍豚美人(ちんとんしゃん)」である。

 同名を愛称にする銀座の老舗とんかつ屋(とんかつ銀座梅林。昭和はじめ講談師の五代目一龍斉貞丈が珍豚美人(ちんとんしゃん)と名付ける。)があるが、この料理とは関係がない。

 豚の竜田揚げに赤いソースをかけた料理、写真などを見ると、たしかに白い衣に赤いソースが美人の唇のよう。料理名をちんとんしゃんと三味線の音と絡めたのも、ベタベタなネタだけど好物である。

 イレブンについては、高槻に移転するか現時点でもよくわかっていないが(はじめ移転するという話があったが、結局移転はなくなった?2023年3月現在ちょっと不明である)、もし移転するなら、行きやすい福島にあるうちに、ぜひこれも食べてみたいというのが今回の旅の2つ目の目的であった。

(1)関西将棋会館とクレーム客

 さて、まずは大阪福島めぐり。

 私自身、大阪の南側には親戚などもあって時々来ていたが、あまりこちらには来たことは少なく、福島に来るのも初めてであった。

 修士の時、この福島をフィールドにして都市民俗学の研究をしようとした学生があったのだけど、下調べに彼女の論文を読んでおけばよかったなあと、ちと後悔する。将棋会館が開く前についたので、駅前の商店街などをうろうろする。

うれても占い商店街

 売れても占い商店街…こういうネタ大好き。

 このほかガード下の商店街など覗いてうろうろした後、念願の関西将棋会館に向かう。 

 

関西将棋会館

 来てみるとなるほど、たしかに小説にあった通り、でかでかと、将棋会館の文字が書かれている。

 昭和56年に建設されたこの建物は、江戸城本丸の黒書院(御上段の間)を再現していることで有名である。

 アニメ版「りゅうおうのおしごと!」OPでは、和室で四の掛け軸をバックに主人公、九頭竜八一が、将棋を指すシーンが出てくる。

 これはこの御上段の間を取材したもので、部屋にある永世名人が揮毫した4つの掛け軸、

 「天法道(天は道に法(のっと)り)」(十四世名人木村義雄書)
 「地法天(地は天に法り)」(十五世名人大山康晴書)
 「人法地(人は地に法り)」(十六世名人中原誠書)
 「道法自然(道は自然に法る)」(十七世名人谷川浩司名人)

 の字*2をアニメのOPでも読むことができる。

 また、以前は、この建物には将棋博物館があり、古棋書や将棋盤・駒、各国の将棋用具などが展示されていたが、これは現在、閉館となり大阪商業大学アミューズメント産業研究所に所蔵資料は移管されている。*3

 高槻に移ったら、将棋博物館も復活させればよいとは思うのだが、資料など移管してしまっては厳しいかもしれない。 ぜひ、再移管あるいは再寄贈を受ける、あるいは、別途資料を展示して博物館機能も持たせれば一つ良い目玉になると思っている。

 そんなことを思いつつ売店を見にいく。高級な将棋盤や駒がショーケースに飾られていると思ったが、残念ながら、日焼けを嫌うということで、現物はしまわれており、写真のみが展示されていた。これは少し残念であるが仕方ない。

 

 売店で、一番目立つのは、棋士たちの揮毫した扇子である。「百折不撓」「清流無間断」…といった文字があって、ちょっと興奮する。

 せっかく来たので友人の土産はここで買おうと思い、関西将棋会館のシンボルでもある御上段の間クリアフォルダと将棋会館の構造図クリアフォルダを買う。将棋会館の構造図クリアフォルダとか、マニアックすぎるだろ…

 

 うきうきと、商品を選んでいると、販売部の人にクレームをつけているおっさんがいた。

 何を買ったかはわからないが、何か買ったものが一回使ったら壊れたらしい。

 (客)「なー、これ使うたら、1回で壊れたねん。こんなんありえへんやろ。交換して」

 (売)「でしたら購入時のレシートをお持ちいただければ、交換ができます」

 (客)「そんなん、もうないわー」

 (売)「えーと、購入されてお使いになったはいつごろでしょうか?」

 (客)「去年(2022)の春くらいに買って、使ったのは9月くらいや」(この話は2023年1月の話である)

 (売)「…さすがにそれですと…レシートがありませんと」

 (客)「なんやそれ、そんなのおかしいやろ。上の人にちゃんと伝えて!」

 こういうとこでも、こんなクレーマーいるのか…関西はおっかない。

  販売部のおねえさんに「大変でしたねえ」と声をかけて、イレブンに向かう。

  

 (2)イレブン「珍豚美人(ちんとんしゃん)」

 さて、ようやく昼飯時になったので、レストランイレブンに入る。

  レストランイレブンは 1981年創業。現在の関西将棋会館の建設が1981年なので、まさしく現在の関西将棋会館とともに歩んできた洋食屋である。

 中に入ると、U字型のカウンターでキッチンがライブでみられる席が入口すぐにあり、3つほどテーブル席がある。

 壁やテーブルに重厚な木目を生かした感じの大変落ち着いた店であった。

 ここには看板メニューとして「バターライス」(藤井聡太竜王の好物として話題になる)「ダイナマイト」(未詳。『りゅうおうのおしごと』でもあえて詳細は伏せられている)などがあるが、「珍豚美人(ちんとんしゃん)」もそうした看板メニューの一つである。

 イレブンの珍豚美人は『りゅうおうのおしごと』では次のように描写されている。

 

「ま、まあせっかくここまでいらっしゃったんです。まずはお食事でもいかがですか?この『珍豚美人』なんてオススメですよ?」

 メニューを広げながら料理の説明をする。

 ちなみに珍豚美人はトゥエルブ*4のマスターによる創作料理で、軽い衣をつけた豚肉に甘酸っぱいソースをかけた逸品だ。変わった名前だけど俺は好き。(『りゅうおうのおしごと』第1巻)

 さてカウンターに座り、手際よく料理をしている親父さんと若手(息子さんかしらん)をながめつつ、初手は瓶ビール一本。

 

イレブンのカウンターとビール

 私は普段、一人で飲むときは、腹が張るので、ビールは避けることが多いが、レトロな雰囲気にひかれて、珍しく瓶ビールを頼む。定跡外しの一手であるが、揚げ物とビールは味が良い。好型である。

 他の定食なども気になりつつ、当初の研究通り、珍豚美人を頼む。

 愛想のいいホールのお姉さんから「ビールと一緒でしたら、ご飯はなしにします?」との応手。店の人のおすすめには、基本、受けに回った方がいいというのが私の食風である。すこし考慮時間を使い「ご飯はなしでお願いします」と返す。

 さて、ビールをちびちび飲みすすめていると、土曜の昼時だというのにだいぶ混んできた。見るととなりの人は将棋の定石本を読んでいる。さすがは将棋会館である。

 そんなこんなでやがて珍豚美人が到来。ガルニチュールと豚の天ぷらの色合いが見事である。

イレブンの珍豚美人(チントンシャン)

 衣は軽くしてあり、少したたいて柔らかくした豚はとても柔らかく、衣のサクサクした風情とあっていておいしい。

 豆板醤とゴマのソースのせいか中華料理っぽい風情があるのも私の好みである。思わず2杯目にハイボールを頼み完食。

 あまりにも旨くて、もう一品ぐらい何か別の料理を頼もうかとも思ったが、老舗の洋食屋で、しかも混んでるランチの時間に長居をするのは、ちと味が悪い。

 ハイボールを飲んで、関西将棋会館とイレブンを後にした

 珍豚美人、ごはんにもよし、つまみにもよし、ああこれが東京でも食えたらとこの文を書きながら今でもよだれを垂らしている。イレブン、ぜひまた夜などに来てゆっくり飲みたいものだ。

 

 …さて、ここまで書いて、賢明な将棋好きの人々は「関西将棋会館まで行ってなんで売店見て飯だけ食って帰るの?将棋道場行って手合い申し込んでくるんじゃないの?」と気づいたことであろう。

 実は、下調べが不十分で、上の階で将棋があって道場手合いできるの知らなかった。なので、わざわざ関西将棋会館に道場には行かずであった。

 というかこの段階では、将棋多少興味あっても、自分で指そうとは全く思っていなかった…

 それが、180度変わっって急に将棋趣味を覚えた件についてはまた次回「関西将棋巡り(下)」にて。

*1:特に主人公の一門の一人、清滝桂香や師匠清滝鋼介の活躍する7巻はおっさんの熱い復活の話でおすすめである。

*2:いずれも老子道徳経の二十五章より。なお、永世名人は原則として引退後に襲位する称号であるため、「道法自然」の掛け軸は、谷川浩司が現役棋士である間、谷川が対局者もしくは立会人のときには外される。参考:関西将棋会館|将棋連盟について|日本将棋連盟。 なお、先日横浜の中華街を歩いていたらこの語を使ったキャラ絵が横浜中学校の壁に書かれていた。結構有名なフレーズなんだろう

*3:特別展示 | 主催講座・イベント | アミューズメント産業研究所

*4:なぜか作中ではイレブンではなくトウェルブとなっている